やっちゃった
たまには思い切ります
やってしまってから、臨也はよく夢を見るようになった。
睡眠は効率よく時間を短縮してとる主義だったため、夢なんてものはそれほど見たためしがない。が、ここ数日・・・というか、帝人とやってしまってからは異様なほどの回数で夢を見ている。
まぁつまり、そういう、夢を。
今日も今日とてベッドから転げ落ちるようにして臨也は目覚めた。
「・・・・・・・ゆめ」
絨毯の感触を頬に感じながらも、未練たらしくあたりを手で探る。
当然帝人はそこにはいないが、このまま二度寝すれば同じ夢の続きが見れるかも、なんて考えるが、どうしても起きなければいけない理由も存在する。
「この年になってさ・・でも逆にすっごい健康体ってことじゃない?さすが俺」
無駄にキメてみるが、それこそさすがに恥ずかしくなって勢いよく服を脱ぎ棄てる。
下半身の濡れた感触ももう慣れたものだ。思春期のころより回数が多い気もする。
新しい下着と服を出して手早く着替えて、汚れた下着はそのままゴミ箱へ直行だ。
一連の動作をやり終えて思うのは(欲求不満すぎる)の一言しかない。
顔を洗ってからキッチンへ立つとコーヒーメーカーをつける。
ドリップを待つ間に、これからどうするべきか、について真剣に考え込んだ。
(どう考えても欲求不満だ・・・誰か適当な女捕まえるべきか?でもそれって浮気じゃない?)
まず付き合ってない。ということを臨也に誰か突っ込んでやるべきだ。
とんだ一方通行な考え方だが、脳内では「臨也さんのばかっ、浮気者!」と涙ながらに叫ぶ帝人の姿が見える。
それはそれでおいしいかもしれないが、浮気性の人間なんて少年らしく潔癖なところもある帝人からすれば恋人失格だろう。失格にはなりたくない。
「でもまず恋人になりたい・・・・」
悲しい独り言をつぶやくと、煮詰めて真っ黒になったコーヒーを一口含む。
この舌と頭にガツンとくる苦味が、逆に今は意識をはっきりとさせてくれる。
せわしなく足を組み替えながら、どうすれば恋人になれるのか、を考えようと思うのだけど、それ以上にここ最近の肌色の夢がちらついて、どうすれば帝人君ともう一度やれるのか、にどんどん考えがシフトしていく。
(俺も酔ってたからあんまりはっきりと覚えてないんだよね、もったいないことしたなぁホントに・・・でも可愛くてめちゃくちゃよかったことは覚えてるんだよ。うん、よかった・・・)
後日、自分の背中に爪痕を発見して小躍りした記憶すらよみがえる。
臨也は初体験は早かった。だがそれと満足感は違うものだ。欲求を外部で出すことによって得られるだけの快感と、本当に好きな人間を抱くことによって得られる快感は段違いに違うのだということを、この年になって初めて知った。
知識欲だけは人の十倍はある臨也にとって、実体験に基づいて得られる知識(しかも良い方向で)は好ましい。
さまざまな欲が満たされる感覚に酔っている。
(恋人になったらセックスだってすぐできる・・でも今は恋人じゃない、けど、できた)
しかもそのあとの関係は決して最悪ではない。
最悪はそれこそ「臨也さんって誰でもいいんですね、軽蔑しました」と言って会ってくれなくなることだ。
この前大失敗はしたものの、笑いあって話すことすらできた。
その笑いの質が最低だったことは意識の彼方へすでに放り投げている。自分の都合の悪いことは無視できるタイプだ。
あの大失敗が今後に影響してないことだけは祈りつつ、ぺちょりとテーブルへ頬を付けた。
冷たい感触に(もしこれが帝人君のお腹だったら)と妄想を始める。
「むにむにして、はむはむして、ちゅーってして、ぺろぺろする・・・」
帝人が聞いていたら百年の恋も冷めるのではないだろうか。
実際にテーブルが帝人であるかのようにぐりぐりと顔を押し付けはじめる。
その時目の端に包装紙に包まれた箱が見えた。それが何の箱だったか思い出せずじっと眺めていたが、ようやくビールの詰め合わせだと思いつく。
依頼人だったか誰だったかが、お中元だか賄賂だかで持ってきたのだ。あまり詳細を思い出せてないが、もういいやと考えるのをやめようとして、あることを思いつく。
臨也の目が怪しく光った。
「そこで俺は思いました。もう一回飲ませようと」
ビールの箱を指でなぞりつつ重々しく告げる。
自分の前に積まれている書類をめくることすらしない。ここ最近碌に仕事もしていない。
「だってさ、ほら、アルコールと気付かなかったなら俺のせいじゃないし?むしろ俺も気付いてなかったし?って状況なら俺悪くない。絶対悪くない」
絶対に悪い。というかさらにお互い気まずくなるだけだろうが、そんな点まで臨也は気を使わない。
それよりも先日の帝人のあっさりした帝人の言い分のほうが気になって仕方ない。
「とっくに記憶から放り出したとかさ、俺のこと忘れたみたいな言い方して酷いよね。俺はずーっと、ずぅぅーっと帝人君のこと考えてるのにさ。俺が考えてるんだから、帝人君も俺のこと考えるべき。あと俺がやりたいんだから、きっと帝人君もやりたいよね」
責任転換もはなはだしい、がこの自己中心的な考え方こそが臨也そのものだとも言える。
そんな主張を、ここ数日碌に働かない上司のせいで、秘書という理由だけで仕事の肩代わりをさせられていた彼女は率直に告げた。
「あいも変わらず気持ち悪いわねあんた」
「ブラコンに言われたくない」