二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

やっちゃった

INDEX|7ページ/13ページ|

次のページ前のページ
 


休日の朝、家の掃除や洗濯など主婦のような一仕事を終えて、昼に差し掛かろうという頃合い、帝人はぶつぶつと独り言を呟き続けていた。

「年上の男の人と付き合うには・・・あえて子供っぽさを見せることも重要です」

ぺらりとページをめくる。
高くて重いわりに薄い女性雑誌だ。そんなもの普段は買わない、というか意識をすることもないのだが、たまたま本屋に立ち寄った際にこれが平積みされていた。
そして表紙には『男心をつかむ必見恋愛テクニック!~素直になれないあなたへ~』と書かれていた。
気が付けば、まだ必要ではない参考書と買ってまでは読まない少年雑誌の間に挟んで、レジに持って行ってしまっていた。
衝動買いの恐ろしさに財布の残金を見て慄いたものだが、懐にダメージを受けたんだから払った料金分は読み込まないと損だ!と精神を奮い立たせてページをめくり続けてている。

「でもこれって女の子がやるから可愛いのであって、僕が甘えて見せたところで何になるというの・・・」

『女には不自由してない』臨也を客観的に見た場合、思い浮かぶ言葉ベストテンには入るだろう。
経験値は高そうだし、子供っぽさを見せたりなんて駆け引きはすでに何十回も実践されているはずだ。

(今さら、しかも女性でもない自分がやったからって、それで臨也さんの興味を引けるとも思えないし)

逆に甘えたところをからかわれて終わるオチ、と冷静に帝人は評価する。
帝人が臨也の思考パターンを考えるとき、最終的には『からかわれる』を選択してしまう。
大抵の場合は正しいが、今回はそれが当てはまらないということを、帝人も、誰も知らない。

むすっとした顔のままでペラペラと雑誌をめくり続ける。
そのたびに目につくものが占いだ。

「相性占い・・・血液型占い・・・星座占い・・どうして女の人の雑誌ってこう占いばっかり載ってるんだろう。そんなに見るものなのかな」

それでも気になって臨也の血液型はなんだったか、と指でなぞる。
数分真剣に雑誌と向き合ってからようやく(何をやってるんだ僕は)と我に返った。

「だいたい臨也さんの誕生日知らないから星座占いもできないんだよね・・って違うそうじゃなくて!」

ばたんっと雑誌を音高く閉じる。
その雑誌の裏面を見てみれば、そこにもゴシック体の目立つ色合いで文字が書いてあった。

「男は胃袋でつかむべし・・?」

裏からめくっていけばちょっとした料理の作り方が載っていた。
一人暮らしをしている分、普通の男子高校生よりは料理の腕はマシなほうだろうと自分では思っている。
それに臨也と知り合って以来どちらかの家で会う際は、帝人が料理を作ることも多かった。
実際の理由は帝人の料理を食べたい臨也がねだって作ってもらっていたのだが、帝人はただレトルトが嫌いなんだなと感じただけだ。

「なるほど・・・臨也さんってレトルト嫌いだし、手料理って効果あるかな・・・ってそれもいまさらだし。しかも女の子がやるならともかくって言う・・・・うーん・・・」

悩みながらも頭のどこかでは(あ、この料理ぐらいなら僕でも作れそうだな・・)なんて雑誌を見ながら思ってしまう。
自分で食べるためだから、と自分に言い訳しながら作り方を暗記する。
さらにページをめくれば今度は料理器具の紹介だった。そこに一人鍋用の土鍋を発見し、連想して先日の事件が脳裏に浮かぶ。
帝人自身も酔っていたため細部までは思い出せないが、出だしは臨也だった。
「鍋と言えば熱燗かなー」なんて言って徳利とお猪口を持ち出した。そこに身近であまり見たことがないお酒セットに帝人が食いついた。
あまり見ない=見たことがない=非日常!のいつもの流れだった。
後悔先に立たずを体験した結果、これからお酒はもう飲まない、と誓いを新たにする。決して非日常に食いつかない、とは誓わない。

(だって臨也さんとやっちゃって、悪くなった部分なんてないよね・・?この前も普通に話せたし。最低の内容だったけど)

気まずいことは気まずいしけれど、セルティの家で会った時だって臨也はそういう対象がいっぱいいる、みたいなことを言っていた。
つまり、帝人も大勢の中の一人になってしまっただけであって、これから会わなくなるとかフラれるとか、そんな最悪の事態は逃れたのだ。
臨也のことが好きだと気付かれてからかわれる可能性はまだ残っているが、それはやってしまう前からあった可能性だ。
する前とした後で変わった部分なんてバックバージンがなくなっただけだ!と変な方向でポジティブになる。もしここに正臣がいたら血の涙を流したことだろう。

(お酒の力を借りてではあったけど、好きな人とできたんだからそれって良いことじゃない?)

酒の力を借りてる時点で良くはない。が、指摘する人間もいない。
これからも好きだってばれないようにして、あのことはなかったことにして普通にやっていこう、と拳を握った。

それにしても気になるのが臨也の「俺ってモテるから」発言である。
モテるのは知ってる。見ればわかる。性格の残念さなんて一目会っただけではわからないのだから、外見だけ見て寄ってくる女性ならあっさり食えるはずだ。性格なんてしばらく一緒にいないとわからない。
(ご飯を食べてほろ酔いでいい気分になったらすぐやっちゃうんだろうな、大人って・・というか臨也さんサイテー)と、臨也が一番恐れいていた思考に帝人はたどり着く。
それと同時に、なぜ自分だったのか?というところが気になる。
帝人は男だ。それも生まれた時から知ってる。

(女の人も周りにいっぱいいるし、可愛いって思ってる人もいるみたいなこと言ってたし・・わざわざ僕を抱く必要なくない?それともお酒ってそんなに強力なものなのかな・・・)

帝人が抵抗しなかったのは酔っていたのもあるが、臨也が好きだからだ。
好きな人に求められて気分悪いわけがない。

「でも臨也さんにとっては特別でも何でもなかったわけで・・ホントになんで僕なんて抱いたりしたんだろ」

好きでもないのに手を出すなんて最低だ、と小さく零す。
臨也が気軽にやったのであろうことに、こんなにも自分は動揺して、普段は買わないような本まで買ってしまったりしてるのに、と雑誌の背表紙をなぞる。
臨也の最低さも残念さも知っていたし、それでもなぜか好きなのだから仕方ないのだけど、卑怯だと思ってしまう。
自分がすることで臨也も同じくらい動揺することがあればいいのに、と考えている現在、その臨也が部下に気持ち悪いと宣言されているとは帝人も知らない。

「恋人、いるのかな・・それともそういうことする人がいるってだけなのかな。可愛い、って言ってたし綺麗系より可愛い系がタイプなのかな・・・いやいや!どっちにしても望みないよね。僕が可愛い系なわけでもないし」

ばっちり可愛いと思われているのだが、帝人の思考では男イコール可愛くない、だ。
ダラーズの創始者で、高校の後輩で、チャット仲間で、ぐらいしか臨也とのつながりはない。
臨也の信者のように臨也のことを想っているわけでもなければ、女性のように心地いい体をしているわけでもない。
作品名:やっちゃった 作家名:ジグ