【臨帝】SS【詰め合わせ】
【こんなにも、】
「…ッ!」
がしゃん、と、錆びたドアが軋んだ。
突如背中に感じた強い衝撃。押し込まれるように玄関へと倒れ込んだ僕が背中越しに見たのは、勢いよく閉められたドアとその前に立つ一人の影――
「臨也、さん…」
「やあ、帝人君」
元気だった? とまるで軽口を叩くかのような声音と表情は、けれど両腕を背後で拘束されている状態では空恐ろしく聞こえた。
何を、ともがくけれど高校生である僕と成人した男の人である臨也さんの体格差でははねのけることも叶わない。
「何で急に…っ」
床に押し付けられ喘ぐ呼吸の中、必死に絞り出した声は臨也さんの言葉に遮られた。
「何で?そんなの俺の方こそ聞きたいよ。帝人君、ねえ何で?何で他の人に笑いかけてるの? 何で紀田正臣と笑い合ってるの? 何で園原杏里と微笑んでるの? 何でシズちゃんと一緒にいるの? ねえ何で? 何で何で何でなんでなんでなんで…っ」
「い、ざや、さ…?」
苦しいのは僕の筈なのに、最後の方は掠れるような声で叫んでいる。
思わず彼の名を呼んだ僕の髪を、彼の細い指が思い切り掴んだ。
「ぅ、あ…ッ」
痛みに呻く。
「ああ、そっか」
ふと、声色が常の彼のものへと戻った。ふふ、と笑みさえ洩れる。
こわい。怖い恐いこわい。
本能が恐怖を叫ぶ。
「…っい、!」
無理に振り向かせられ、背骨が軋む。
「俺以外見ないように閉じ込めちゃえばいいんだよね」
なあんだそっか、簡単じゃないか。
ね? と眇められた瞳の奥、隠された赤に揺れる深紅の狂気。
「まずはその唇を塞ごうか」
悲鳴は口腔へと吸い込まれた。
作品名:【臨帝】SS【詰め合わせ】 作家名:志保