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【臨帝】SS【詰め合わせ】

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【ひとみに、キス】

「臨也さん」
「ん? なぁに」

どうしたの帝人君、とこちらを覗き込んだ臨也さんの手からマグカップを受け取る。
深い碧色をしたそれは僕がここに来る度に使う物で、いつの間にか当然のようにカトラリーに収まっていた。
そんな何気ないことでさえ嬉しく感じてしまうのだから、相当自分はおかしいのだろう。
じ、と目の前の相手を見上げる。
端正な顔立ちをした彼は「そんなに見つめられたら穴が空いちゃうよ」なんて言って自分のマグを手にデスクへと戻ろうと踵を返した。

「…っ、」
「わ、っと」

正確に言うならば、返しかけた、だ。咄嗟にふわりと空気を舞い込んで浮いた布地を掴む。
服の裾を引っ張られる形でその場に押しとどめられた臨也さんは「危ないよ」と苦笑してマグをテーブルへと置いた。
カタン、と硬質な音が響く。

「ほんとに、どうしたの?」

具合でも悪いの? と覗き込んできたその瞳に、無性に苛立ちが募る。
僕ばかり彼のことが好きで好きで好きで、彼はどうしたって大人で、8つの年の差が埋まるなんでそんなこと考えたことはないけれど、でも。

「……っ!」
「すき、です」

どうしようもないほどに。こんな、口付けでは伝えきれないほどに。

「すきなんですよ」

ああ、馬鹿の一つ覚えみたいにそれしか出てこない。
湧き上がる思いは何度呟いてももやもやと胸で渦巻いて晴れることがない。悔しい。
どうせ「知ってるよ」なんて言って短い髪をくしゃりと撫でるのだろう。悔しいけれど、それが今の僕と8歳年上の臨也さんとの関係で、距離だ。

「……?」

けれど、いつまで経っても降りてこない感触に、ふと視線を上げた僕の目に飛び込んできたのは、

「め、ずらしい、ですね」
「ちょっ、見ないでくれる」
「臨也さんでも照れることなんてあるんですね」
「まじまじと見るとか君ってほんといい性格してるよ」
「そんなのお互い様じゃないですか」



あとから聞いたら、「だっていきなり帝人君告白してくるんだもん。びっくりしちゃった」だそうだ。
その口調にはとりあえず突っ込まないことにして、僕は初めて見た臨也さんの表情を反芻することにした。

作品名:【臨帝】SS【詰め合わせ】 作家名:志保