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踊る、ぬいぐるみ戦線

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―それはつい、先刻のこと。

きっかけは就業後、いつものように兄妹一緒に家路へ着いていたその道中。
乗用車が少なからず行き交い、道幅もそう広くはない箇所であるので、彼らはしっかりとお互いの手を握って進んでいた。
・・・・・・同じ学園に通い、勿論同じ制服を着た2人であるので、はたから見れば『そういう』間柄にもまったく見えないことはないのだが、それを面と向かって指摘できるような『猛者』は今のところ存在しない。

不意に、後ろ手を引っ張られるような感触にスイスは歩みを止める。不審に思い、振り向いた先には
自分より一歩ほど後ろに立っているリヒテンシュタインの姿。
妹が故意に手を引いたのではなく、立ち止まったが故の小さな衝撃だったのだ。

どうした と声をかけようとしたスイスはその行為を押し留める。リヒテンシュタインがひどく真剣な眼差しで、何かを見つめているのに気付いたのだ。
自分たちの立っているのは、学園からほど近い距離に建つゲームセンターの入り口前・・・・・・派手なポスターや宣伝旗の掲げられた、多少乱雑としたその軒先。
妹の視線の先にあるのはクレーンゲームの筐体だった。透明なプラスチック壁を隔てた中部には所狭しとぬいぐるみが詰め込まれている。

・・・・・・リヒテンシュタインがその中のどれを注視しているのかまでは
分からなかったものの。
家へ到着するまでの間に、スイスの心は決まっていた。普段から滅多に
物をねだることのない妹なのだから。


作品名:踊る、ぬいぐるみ戦線 作家名:イヒ