GUNSLINGER BOY Ⅵ
「お兄さん強いんですね・・さっきの、すごかったです」
「ただ馬鹿力なだけだ」
「いえいえ、拳も蹴りもキレが凄かったですし、ああいう闘い方もあるんだって、見惚れちゃいました」
「ああいう闘い方って・・格闘技観戦の趣味でもあるのか?」
「ええ・・まぁ、そんなところです。手足長い人って一つ一つの動きが様になりますね・・羨ましいです」
「・・そ・・そうか?」
「はいっ」
そう手放しで褒められると悪い気はしないのだがどう対応していいのか困る。
しかし、今回はただ殴るか蹴るかだけだった上、相手がすぐ退散したからいいが・・標識を引き抜いたり壁を壊したりすれば流石に怯えられるだろう。
高校を卒業し、とある天敵がこの街を去ってから静雄が爆発的な暴力を奮うことは減ったため、知名度は下がってきたがそれでもまだ当時の通り名を知る者は多い。
なるべく、この少年には知ってほしくないと思った。
横を歩く少年は話している間も何かある度に興味深そうに周囲を見回している。
「・・お前、この辺りに来るのは初めてなのか?」
「はい。ついこの間、ここの隣の街に引っ越してきまして・・今日はちょっとおつかいに」
「さっきも言ったけどよ、裏通りとか人気のない道とかは一人で歩かない方がいい。大通りなら巡回の警官とかもいるし割りと安全だが。
かっさらわれて売り飛ばされても知らねえぞ。
しかも今、この街にはパダーニャの過激派の奴らが潜伏してるって噂もあるしな」
「そうなんですか・・最近多いですよね」
五共和国派、通称パダーニャ。貧富格差の是正のため5カ国に分割した共和国制を目指す反政府組織の総称だ。活動は国会議員を擁する純粋な政党などの政治組織からテロなどを行っている過激派まで様々である。近年も過激派による大きな事件やテロが頻発しており、そのある事件の首謀者がこの街に逃げ込んだと噂されているのだ。
過激派の中でも特に極端な考えを持つ者の多い組織だというから、こういういかにも育ちが良さげで富族層っぽい子供は敵と見なされる可能性も無きしも有らずだ。
実際、数年前に富豪の娘が誘拐される事件があった。
「こっちに非はないとしても、自衛するに越したこたないだろ。俺みたいなのは絡まれたってどうってこともないけどよ。家族だって心配するだろうし」
「家族・・・・」
呟いた少年の表情がなぜか寂しげに見えて、もしかしたら触れてはいけないことだったのかと思い、少し焦る。
「わ、悪い、」
「いえ、大丈夫です。 お兄さん、優しいんですね」
そう言ってまたふわりと笑った顔にドキリとした。
静雄が何か言いかけたところで、少年は小走りで静雄の何メートルか前に出てくるりと振り返った。
向こうには目的の大通りが見えている。
そうか、もうついてしまったのか。
「送って下さってありがとうございました。お話できて楽しかったです」
「おう。気をつけて帰れよ?」
「はい」
小柄な背中が夕暮れの街と消えていく。
我ながらチープな発想だが、そこに羽がついていてもおかしくないと思った。
怯えずに接してもらえたことが嬉しかった。
力についてあんな風に言われたのは初めてだった。
・・そういえば、名前を聞かなかった。
そのことを残念には思ったが、この沢山の人が行き交う街で偶然会えて話せただけでもラッキーだったと思いなおした。
縁があるならばまた会えるだろうか。
静雄は外していたサングラスをかけると煙草に火をつけ、上機嫌で歩きだした。
この時はまだ、あんな思いがけない再会をするなど知る由も無かった。
作品名:GUNSLINGER BOY Ⅵ 作家名:net