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Dog_Fight

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「お前が、ほんとにここまでついてくるとは、ね。
遊びは、終わり。
リュウ。」
顔を上げ、逆光になったボッシュの表情の背景に、残り時間を知らせる赤い数字がさかさまに見えた。

00:00

すべての数字が揃ったとき、ズン、と、つきあげるような衝撃が、リュウの背中に、ひびいてきた。
つづいて、重いものが裂けるような、轟音。
ボッシュに続いて、あわてて身を起こしたリュウの目の前で、目の高さにあったはずの、遠くのコンクリートの構造物が、次々と視界から消えていった。
地響きと爆発音は、一撃でやむことなく続く。
次々とビルを模した訓練場の構造物が、まるで立つ力を失ったかのように、すべもなく震えたまま、真下へとくずれおちていくのを、リュウは見た。
リュウとボッシュのいる、この建物を取り囲む構造物はすべて、端からその根元を爆破され、垂直に砕けて、震えつつ落ちていった。
2人のいるこの建物をのぞいて、訓練所内部の目で見える限りのすべての構造物が、粉塵をあげてじゅんじゅんに姿を消し、
消えた建物のあった場所には、生き物のように、元の建物と同じ高さにまでせりあがってきた厚い土ぼこりが、やがて高さをあきらめて、
ふたりのいる場所を中心に、波のように静かに外側へと広がっていった。
もともとこの区切られた部屋の中で、頭ふたつ分ほど高かったこの建物のほかは、見渡す限りの構造物が失われ、
リュウは、自分とボッシュがただふたりだけになったかのような気分に襲われた。
轟音と厚い土ぼこりの壁に隔てられて、ガラスの向こうのギャラリーからも、いまは2人の姿がまったく見えないだろう。
「訓練場内の建物に、爆破物を、仕掛けてたのか…?」
「壁の時計と連動させただけだ。
『全部、ぶっこわす』って、言っただろ…?」
リュウは、前日の夜の、ボッシュの言葉を思い出した。
「これで、俺たちに口を出す馬鹿は、もう、いなくなるぜ。」
訓練場全体を見渡せるこの場所に腰掛けて、2人がいるこの高い建物のほかは、すべての構造物がくずれていくのを、ボッシュは、楽しげな、けれどどこかでなにかをあきらめたような瞳で、見つめている。
「ボッシュ………。」
はてを見るようなその横顔を、いままで見たことが無いほど凄絶に綺麗だ、と、リュウは思い、そのまま意識を手放した。



4.

「どうだ、気分は?」
やわらかく、けれどどこか凛とした声に、リュウは、ゆすぶられた。
目を開くと、白い天井の四角い模様を背景に、ゼノ隊長の顔が見えた。
「ここは? 俺…、どうなったんです?」
「医務室だ。肋骨が3箇所骨折、
いまは鎮痛剤が効いているが、しばらくは息をするのもつらいだろうな。気分はどうか?」
ええ、だいじょうぶ…と、答えかけて、リュウはぱっと、目を開いた。
「ボッシュは!?」
「お前の相棒なら、ぴんぴんしてる。」
ゼノが苦笑いを返し、ぽん、とリュウの体の上の毛布をはたいた。
それで、リュウに、すべての記憶が戻ってきた。
「訓練施設は、どうなりました? 怪我人は?」
「施設がどうなったかは、お前も知っているだろう?
怪我人は、お前だけだ。
強化ガラスごしに見ていた、サードの新米たちは、無論無事だった。
あとは誰がいたのか、誰も口を割らない。」
「…すみません…。」
その響きの裏に、何も語れないとわびる意志をかぎとって、ゼノが笑う。
「お前たちが何を隠そうが、何も変わらないさ。
全員、処分は覚悟しているな。」
「はい。」
「明朝、出頭するように。」
「あの、ゼノ隊長…!」
出口に向かうゼノを、リュウは思わず呼び止めた。
「あの、ボッシュは…いえ、施設の破壊については、どうなりますか?」
「お前の、その怪我は、事故によるものか?」
「そうです。」
「ならば、…今回の件は、そういうことだ。
事故が起き、レンジャーが一名負傷。
それ以上に、何か言うことがあるか?」
「いえ、ありません!」
リュウは身を起こして敬礼し、痛みに飛び上がる。
ゼノの表情が、緩んだ。
「お前をボッシュのパートナーに選んだことを、
いまも誤ったとは、思っていないよ。
お前も、ボッシュも、まだ学ぶべきことは多い。」
くるりときびすを返すと、ゼノはもう振り返らずに出て行った。
すぐに、外で待っていたらしい、ターニャとマックスとジョンが、入れ替わりに入ってくる。
「リュウ〜〜〜!」
「お前、死んだかと思ったよ…。」
「大げさだな。」
リュウは微笑んで見せたが、マックスの顔色はいままで見たことがないほど、白かった。
「皆、捕まったの?」
「新米だけ、全員ね。
リュウを心配して、施設内を探し回ってて、見つかっちゃって。
その間に、ファーストやセカンドの連中は皆逃げちゃって、誰一人いないんだから。」
笑おうとして、リュウは顔をしかめた。
ゼノの言ったとおり、息をするのも、骨が折れそうだ。
「ガラスの前の建物が崩れたと思ったら、土埃が舞い上がって、何も見えなくなったの。
何が起こったのかとにかくわからなくて、施設内に入ろうとドアのところへすっとんでったんだけど、
セカンドの連中は出口のほうに殺到してくるし、スポーテッドがドアのところでがたがた震えてて、
すぐには入れなかったんだ。
皆、あなたが死んだかと思って、ほんとに怖かった。」
「俺たちはターニャがとび込もうとするのを、あわてて後ろから羽交い絞めで止めたんだぜ。
それで皆で、重装備を用意して入ったんだ。
埃がひどくて、30分ばかり、何も見えなかった。
手分けして探すうちに、騒ぎを聞きつけてとんできた部隊に捕まったってわけ。」
「…ボッシュには、会った?」
マックスとジョンが顔を見合わせて首を横に振り、しばらくしてターニャが、いまいましそうに、答えた。
「あたし、見たわ。土煙が一瞬途切れて、あの屋上で、ボッシュがあなたの隣に座ってるのを。
意識のないリュウを、屋上の真ん中へんまでひっぱりあげてた。」
ターニャが、リュウの目を、覗き込んだ。リュウが、黙って、ターニャの目を見つめた。
「…、あいつさぁ。」
ターニャは、いつもの上滑りでもなく、面白がるようすでもない声で言った。
「自分がかわりに出て、あなたがファーストに潰されないように、って思ったのかな?」
「さぁ、どうかな。」
「そうよね、まさか。それじゃ、買いかぶりすぎよね。」
リュウがかすかに笑うと、ターニャがいつもの表情で顔を寄せた。
「ちょっとだけ、見直したみたい。うん、安心して!」
「そんなことより、問題は処分だよ〜。俺たち、どうなるんだ?」
マックスが情けない声を上げ、ターニャに背中をはたかれて咳き込んだ。
「うるさい。リュウがこんな目にあったの、誰のせいよ?
なんなら、全部隊長に報告する?」
「うそ、うそだよ、ごめん。リュウ、早く怪我、治してくれよな。
このお詫びは、なんでもするからさ。」
「だいじょうぶだよ、これくらい、すぐ治る。」
「用事は、何でも、こいつに言いつけろよ?」
ジョンが、頭をこづいたので、マックスは小さな悲鳴を上げた。
そわそわしだしたリュウに、ターニャが気をきかせた。
「じゃ、ゆっくり休んで。また見に来るから。」
「ありがと、ターニャ。」
「ほらほら、行くわよ!」
作品名:Dog_Fight 作家名:十 夜