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Dog_Fight

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ささいことでも大騒ぎする同僚のターニャの声に、ボッシュはうんざりしたようすで、休憩室のへこんだ机に足をあげて、そ知らぬ顔で書類に目を通すふりをし始めた。
「だいじょうぶだよ、ターニャ。ちょっと自分で転んで、すりむいただけだから。」
「ほんと? ほんとに? 嘘じゃないの?」
「…嘘って…。そんなわけ、ないだろ。」
「そう、そうよね。よかったぁ。…あのねー、ちょっと、小耳にはさんだものだから。」
この思わせぶりな言い方がターニャのお得意だった。ここから、えんえんと噂話を聞かされることになる。
…知ってる? セカンドの誰がしくじったって! 聞いた? ファーストの誰が左遷されそうなんだって!…
リュウは、ターニャの口元を見ながら、「あの口、レンジャーより情報屋向きだぜ」といつだったかボッシュが言っていたのを思い出した。
「…聞いてる? だから、心配したんだよ! もう始まっちゃったんじゃないかと思って!」
いつの間にか、ボッシュが裏返しの書類を見すえながら、何度かまばたきしている。リュウはあわてて、意識のチャンネルをターニャに戻した。
「え?ごめん、もう一度。なにが始まったって?」
「”ドッグ・ファイト”だよ。決まってるでしょ。知らないの?」
ターニャは顔を近づけ、大げさに声を潜めて、最初の「ドッグ」と「ファイト」をはっきりと区切って発音した。
勿論、自分以外、誰もまだ知らないとびっきりのネタだと、そういいたいのだ。
「ドッグ…何?」
「おい、リュウ。そろそろ、行くぞ。」
ボッシュが読んでいたふりの書類を投げ出し、立ち上がったのを横目で見て、話の腰を折られたターニャが唇を尖らせた。
「ごめん、ターニャ。その話は後で。」
「もう、リュウったら! 最新情報なのに! 聞かないと損するのに!」
大またで歩き出した相棒を追いながら、リュウはなおもがなりたてるターニャに軽く目で合図し、休憩室を出た。
ボッシュはさっさと休憩室の前の廊下を右へ曲がり、下層街につながる方へと歩み去ったようだ。
あわててその後を追おうとして、リュウの右手が、廊下の壁際にもたれかかり、話し込んでいたファーストレンジャーの1人の肩にぶつかった。
「あ、すみません。」
「まて、お前!」
リュウは立ち止まった。
「誰にぶつかったと思ってる。」
荒げた相手の声に、リュウは向き直り、もう一度ぺこりと頭を下げた。「すみませんでした。」
「誰だ、こいつ。新入りだな、名前は。」
「リュウ1/8192です。」
「8192だ?!」 明らかにあざけった調子でリュウの言い方をまねて、数字を繰り返す。
「…おい、リュウ、何してる?」
静かな声が、廊下の先から響き、リュウも、ファーストレンジャーたちもそちらを振り返った。
右手のグローブを手首のところまで引き下げながら、戻ってきたボッシュが声を低める。
きついまなざしで、ファーストレンジャーたちをねめつけたボッシュは、リュウに向けて、「行くぞ。」と言い放った。
「…ボッシュ!!」
「・・・・・・。」
ボッシュはきびすを返すと、もう後ろを振り返りもしないで、廊下の先のドアを出てしまう。
黙ってしまったファーストたちに、リュウは再度ぺこりと頭を下げると、そのままボッシュの出たドアのほうへと歩き出した。
リュウが抜けたドアが背後で閉まった直後に、金属の壁を何かで切りつける激しく、大きな音が、いま通り抜けてきた廊下から、リュウの足元にまで響いてきた。




レンジャー基地の暗い廊下を曲がり、基地を出た先は、下層街へとつながる、小さな広場のような空間となっている。
さっさと階段を降り、もう下層街へつながる通路へとむかうボッシュを、リュウは、基地の外階段の踊り場の上から見、ついで、基地の前にたむろする同僚たち数人の輪に気がついた。
リュウたちと同期の彼らは、勿論まだサードレンジャーになって3ヶ月の新米ばかりだ。
レンジャーという、場合によっては危険をともなう仕事をともにしているからこそ、それぞれの持ち場がようやく決まり、離れ離れになっても、何かと相談しあったり、助け合おう、という同期の結束は固い。
リュウには、そういった仲間たちとの馬鹿騒ぎや信頼関係が、とても大切だった。
同期など目もくれない様子のボッシュを見失いかけたので、リュウは、仲間たちに親しげな目配せをかわしただけで、その場を通り過ぎた。
けれども、今日はなぜか、その輪の中になにか秘密めいた雰囲気が感じられる。
それが気になってリュウは一度だけ振り返ったけれど、彼らは真剣なようすで話に夢中になっているようだ。
なんだろう、なにか、ざわざわする。
…まぁ、なにか相談ごとなら、誰かなにか、言ってくるだろうけど。
下層街の入り口で、ようやくボッシュに追いついたリュウは、街を見下ろす大階段の上で立ち止まったまま黙りこくっている相棒に声をかけた。
「どうしたの? パトロール、駅のほうだろ?」
「そんなのはいつでもできる…気が変わった。」
「え?」
「今日は見ものだぞ。お前、実装してるな?」
「してる…けど。」
気まぐれで、先の行動の読めない相棒の援護のために、いつでも種々の武器を実戦装備しておくこと。――それが、この3ヶ月で、さんざんこの金髪の相棒に振り回されたリュウが学んだ、第一の法則だ。
「無線は切っておけよ。」 その念の押し方が、妙に気になる。
でも、ここで反対したところで、自分ひとりで行くと言い出すに決まってる。
リュウは、ほっ、とため息をついた。
とりあえず、いっしょに行動する。で、可能なら、全力で止める。―-このトラブルメーカーの相棒について、リュウが学んだ第二の法則だった。
ボッシュとリュウは、ジャンクから拾い上げた部品が並ぶ、にぎやかな下層の屋台街を抜け、だんだんと人のいない場所へと歩き続け、やがていまは破棄された廃工場の跡地へとやってきた。
十年前の放射能漏れの事故のあと、閉鎖され、建物を解体する資金もなくカンパニーは倒産し、更地にしたところで汚染の噂で売れる見込みもないため、ワンブロック分はあろうかという巨大な工場の建物が壊れたまま、放置されている。
薄っぺらい金属でできている工場の壁に、洞のように大きく口を空けた爆発の穴が残っており、そのぎざぎざの傷口から、薄暗い内部へと、風が吸い込まれていく音がする。
とっくの昔に工場の中はがらんどうになっており、そこにもともとあった機械は綺麗に解体されて、さっきリュウたちが通ってきたジャンク屋台を、当時はさぞかしにぎわしたことだろう。
放射能の影響で、見たこともないような凶暴な変異ディクがいるから、絶対に近づかないように、そんな噂話を施設の先生から聞いた覚えがある。
そういえば、レンジャーになりたてのころに、ターニャが同じ話を聞かせてくれたことがあって、そんな噂は何年たってもなくならないものなんだ、と変なことに関心したものだった。
「ボッシュ、そろそろ教えてよ。この廃工場に何があるんだ?」
「もうすぐだ、だまって、こいよ。」
ボッシュにつづいて、天井の高い、暗い工場の建物の中へと足を踏み入れたリュウは、ようやく、ボッシュの真意を知った。
作品名:Dog_Fight 作家名:十 夜