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Dog_Fight

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けれども、サードの実力がファーストに太刀打ちできるレベルでないことも、また。
「…じゃあ、倒れる前に、真っ先に降参することに決める。
それとも、まさか、勝てるとは、期待してないよな、みんな?」
ふざけてリュウが両手を挙げてみせたので、全員のはりつめていた空気が、ふっとゆるんだ。
「リュウ、不戦敗でもいいから、気をつけてね、本当に…」 同僚の中でも一番の心配性の、優しいエリーが、後ろからリュウの肩に手をかける。
「やっぱり、俺が…。」 思いつめたマックスが、立ち上がろうとするのを、みなが手振りで押しとどめる。
「あいつら、卑怯だよ。ボッシュだってサードなのに、ボッシュのことは指名しないなんて。」 ひざを抱えたハントが、そうつぶやいて、口をとがらせた。
「そりゃ、ボッシュは腕が立つからだろ。」 リュウが苦笑いして、(そんなことになったら、そのほうが、大変だ)、と、こっそり思う。
「ピンチになったら、全員で助けに入るぜ、リュウ。」
血の気の多いジョンの言葉に、全員がうなづいた。
「だいじょうぶ、うまくやるから、心配しないで。ほら、話は終わった。皆、明日も早いから、解散!」
リュウの言葉に、しぶしぶ全員が立ち上がり、宿舎やら下宿やらそれぞれのねぐらへと帰っていった。
まだ何かあれこれ言おうとするマックスとハントを残して、リュウも立ち上がり、地下の部屋の階段を上ると、リュウが出てくるのを待っていたらしいターニャが、階段の上で駆け寄ってきた。
そういえば、話し合いの間、めずらしくターニャが一言も発しなかったことを、リュウは突然思い出した。
「リュウ! ねぇ、ほんとにわかってる?!」
「わかってるよ。正直言って、こんなのは、施設で慣れてる。怪我しない程度に、うまくやるから。」
「そうじゃないよ! どうしてリュウが狙われたか、ちゃんとわかってる?」
ターニャがいつになく真剣な口調なので、リュウは振り返った。
「ほかのみんなは、知らないけど…、
あんたが狙われたのは、全部、ボッシュのせいなんだよ?」
「え、ボッシュって…?」 リュウは、目をしばたかせた。
なぜ、そこにボッシュの名前が出てくるのか、皆目わからない。
でも、ターニャの言い方に少しとげがあるように感じたリュウは、言い聞かせるように反論した。
「ターニャ、ボッシュは関係ないだろ?
嘘でも、そんなふうに言ってほしくない。」
きっぱりとしたリュウの態度に、ターニャは、ぴしゃりと頬を叩かれたような表情になる。
「そうだけど、ボッシュ、リュウが…。」 
「…ボッシュが、どうしたの?」 うつむいて、言葉がうまくしゃべれないターニャを初めて見て、リュウの口調が少し凪いだ。
「マックスたちの件なんて、もう、問題じゃないよ。
最初のころ、あたしが割って入ったときは、ファーストのほうも、遊びだったんだよ。
あたし、わかってた。
”ドッグ・ファイト”なんて言ったって、新入りを脅す、ていのいい口実か、余興みたいなものだって、
だから、サードの皆を巻き込む話にしても、だいじょうぶだって。」
「うん。そうだね。…だから?」
”ドッグ・ファイト”という言葉を、今朝とはまったく違うトーンで、ターニャは、口にしていた。
「でもあの…あの、ボッシュが、今日、リュウと組んで、スマートドラッグの密売現場をやっつけたじゃない!
あれ、一部のファーストが知っていて、黙認してた取引だったんだ。
動いてた金額だって、マックスたちの賭けとは桁が違う。
大金を払って、ファーストが見逃すと知ってたから、堂々とやってたのに、
それなのに、あの一件で、ボッシュにめちゃくちゃに顔を潰されたから、
ファーストの奴ら、だから、パートナーのリュウをターゲットに選んだんだよ!」
ターニャは、そこまでを一息で語り終え、さらに声を潜めて、もう泣きだしそうなか細い声で続けた。
「リュウ、気をつけて…。
あの、壁の文字…あれを見たとき、あたし、わかったんだ。
あの赤は、ボッシュへの警告だよ。
裏取引を駄目にされて、頭にきてる一部のファーストが、
ボッシュへの見せしめのために、相棒のリュウを本気で潰す気になったんだよ。」
リュウは、目を丸くしてターニャを見つめた。




金属の壁で区切られた闇の中に、リュウが押し開けた扉から一条の光が差し、廃墟のようなコンクリートの建物の地肌が、今日のリュウの目にはやけに白く見えた。
また、ここへ来ていた。
本当のことを言って、ターニャの言っていたファーストのいやがらせだの、私闘だの、そんなことさえ、リュウにはどうでもよかった。
リュウの中に残っているのは、相棒に投げかけられた、自分への不信の言葉。
(自分がどれほどの腕だと思ってる…?)
飲み込めぬそのかたまりは、こんな夜更けになっても、まだリュウの胸の中で燃えていた。
その熱に耐え切れなくて、今日もまたこんな夜更けに、この訓練所へ足を向けてしまったのだ。
うつむいたリュウは、手にした練習用の剣をすらりと抜いて横向きに掲げ、その冷たい刀身を額に当て、目を閉じた。
ヴ……ン……。
かすかに低い機械音が、もう何千回繰り返したかわからない模擬戦闘シミュレーションの始まりを告げた。
ホログラムで形作られた人物が、右後方から斬りかかってくるのを、ふりむきざまに、リュウは横なぎにした。
幻影の敵を斬るのは、風を切るように、重さがない。
人物の急所の位置に当て、動きをとめるか、致命傷を与えると、立体映像の敵は一瞬苦悶の表情に変わり、ぷつりと消える。
そうしてまた、別の場所に、新たな敵が現れるのだ。
廃墟にすむ幽霊。
リュウは、廃墟の間を縫って走り、無言で次の敵を斬った。
手ごたえのない体をつきぬけた切っ先が、建物の壁にぶつかって、がしんとコンクリートの角をえぐった。
代々のレンジャーが数え切れないくらい練習を繰り返したせいで、倒れゆくホログラムにはノイズが入り、顔色はどちらかといえば緑色に近かった。
「…なんだよ、お前。敵が出てくる前に、反応してるぞ。」
はっとしてリュウが振り仰ぐと、練習場のコントロール・ルームの中で、腰の高さのコンソールに上半身を乗せ、あきれたように頬杖をついているボッシュが目に飛び込んできた。
呆然と見上げるリュウの胸を、ホログラムの剣が背後から刺し貫き、警笛のようなアラームとともにコントロール・ルームの壁の赤いライトが告げる。
――レンジャー死亡。
「…いくら練習したって、ホログラムの敵の動きを全部覚えてるんじゃ、実戦の役に立つのかよ?」
図星をさされて、リュウの背が、かっと熱くなる。
ボッシュが言ったとおり、レンジャー施設に設置された旧型の戦闘シミュレーションのパターンは限られていた。
そして、深夜の練習を繰り返したリュウは、模擬戦闘訓練で現れるホログラムの敵の位置と動きを、もう覚えてしまっているのだ。
「かもしれないけど…。」
「まぁ、待てよ。もっと面白くしてやるから。」
手元のコンソールから漏れる黄緑の光が、ボッシュの楽しそうな表情を下から浮かび上がらせる。
5分ほどのうちに、ボッシュが再び顔を上げて、廃墟の町に立つリュウを見下ろし、
「もう一度、最初からやれよ。今度の敵は、1人だ。」
作品名:Dog_Fight 作家名:十 夜