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Dog_Fight

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ボッシュの左側には、はりついたような笑顔を浮かべたスポーテッドが、だらしなくポケットに両手をつっこんだまま、少し後をぶらぶらとついてくる。
リュウのいる位置まであと3メートルというところで、ボッシュは足を止めた。
「悪いな、リュウ。」
そして、リュウがボッシュの手にした練習用の剣に目を走らせたことに気づき、付け加えた。
「この不細工な剣か? お前へのハンデだよ。」
「いったい、なんでボッシュが…。」
ボッシュは、めんどくさそうに、剣を持った手を背中に回すと、手首のふしのところで、首の付け根をとんとんと叩く。
ついで、ブーツの足先が汚れていないか、見下ろして確認しながら、ボッシュは答えた。
「んー…、まぁ、諸事情って、やつ?
お前をやれば、あの件はチャラにするとか、いろいろ…、約束があるんだ。」
「そういうこと。」 スポーテッドが口をはさむ。
リュウは、少しも悪びれずに口にする言葉を理解できずに、ボッシュの顔をまじまじと見る。
「ボッシュ、冗談、だろ…?」
「いや、そうでもない。」 ボッシュが、ブーツのつま先を見て、とんとんと地面にぶつけながら答えた。
「だって、俺たちは…、」
ボッシュが、リュウの言葉をさえぎって、その先をついだ。
「パートナー、…か…?」
その口調に、リュウの目の前が、暗転した。
自分の援護を待たずに、突入するボッシュの姿がリュウの目に浮かんだ。
確かに、最初から、実力の差は歴然としていた。
だけど。
「そうだろ? 違うってのか…?」
「8192、わかるだろ?
ローディの代わりなんて、いくらでもいるんだよ。」
会話を聞くスポーテッドが、にやにやしながら、口をはさんだ。
「それに、このほうが、おもしろいだろ、8192?」
「うるさい。」 ボッシュがぴしゃりと言って、見下ろしていた視線の先をリュウのところまで上げる。
「俺の前に立つ気かよ、リュウ。
…いますぐ武器を捨てて、降参しろよ?」
「おい、それじゃ、約束が違う。」
スポーテッドの方を振り返りもせず、ボッシュは、まっすぐにリュウを見ていた。
リュウは、ボッシュの瞳の中心にある、少し暗い蒼の輪が、カメラのフォーカスのようにすぼまるのを見た。
右手の剣は、抜き身のまま、右斜め後方に差し出されている。
「ふざけるな!」
リュウは、思わず叫んだ。
「パートナー相手に降参しろって?
全然、わかってないよ、ボッシュ。
――そんなこと、死んだって、するもんか!」
ボッシュの目が、へぇ、というふうに見開かれ、2,3度まばたきを繰り返した。
「おもしろいな、リュウ。
でも、それなら、遠慮ナシでいくからさ。」
ボッシュは、きっぱりとリュウに言いわたす
「思い出せよ、リュウ。
全部、お前の、したことだろ?
……悪く思うな。」
ギャラリーの最前列に陣取っていたターニャたちが憤って、ガラスをどんどんと叩く音が聞こえる。
それがさらに、周囲からの遠慮のないやじや、無責任な歓声を呼び起こす。
スポーテッドが後ずさりして、ふたりのそばから離れながら、観衆に向かって、ぐるぐると手を回した。
本気なのか?
剣を半ばまで持ち上げて、用心深く身構えながら、それでも、ボッシュの右手を見つめるリュウの瞳は揺らぐ。
湧き上がる歓声をかき消すほどのけたたましいブザーとともに、壁面に残り時間が表示され、戦闘の開始を知らせる赤いランプが灯った。



30:00

慣れない武器の重みを確かめるように、一度剣を後ろに振りながら、ボッシュが、リュウに向かってゆっくりと歩きはじめた。
レイピアで闘う姿はよく知っているけれど、リュウは、剣を使うボッシュを見た覚えがない。
その重みに、いつものスピードが殺がれてくれることを、リュウは祈った。
リュウの前に立つと、ボッシュはためらうことなく剣を振り上げ、そのまま鷹揚に、殴りつけるように振り下ろした。
がしん。
リュウがあわてて、目の前に持ち上げた剣が、ボッシュの刃を受ける。
ボッシュの表情には、少しの揺らぎもない。
手加減を加える気もないらしいことが、一撃の重さで、リュウにもじゅうぶん伝わった。
ガラスの向こうのギャラリーの歓声がここまで聞こえてくる。
リュウの背中が、じんわりと、熱くなる。
力任せに相手の剣を押し返し、すぐにリュウは、後ろへ飛びのいて、ボッシュとの間合いを保った。
ボッシュは少しも急がずに、ひゅん、と一度後方に剣を振り、ゆっくりとまた近づいてくる。
リュウは、ぐずぐずせずに、すぐに動いた。
一か八か、右手にある一番近い建物の中へ駆け込む。
ボッシュは、リュウが向かった先にけだるそうに顔を向けて、リュウを走らせるままにした。
すぐさま、むきだしのコンクリートでできた構造物の階段を駆け上りながら、リュウは、考える。
(いくら慣れない重い剣だといっても、速度と技術で、
ボッシュには太刀打ちできない。
でも、パワーと体力は確実に俺のほうが勝るはず。
袋小路に追い込まれなければ…、
なんとかボッシュの油断する隙がめぐってくれば…。)
ボッシュといま、まともに斬りあうよりも、
遮蔽物を利用しつつ闘うほうが、自分が勝つチャンスは増えるはずだと、リュウは考えた。
4階分の階段を駆け上がり、リュウは建物の屋上へと出る。
建物の屋上から、この訓練所の全景を見渡して、リュウは、記憶の中の地図が間違いないことを確かめた。
 幸いなことに、この場所で何度も訓練を繰り返していたリュウの記憶には、それぞれの構造物の高さと位置がしっかり叩き込まれている。
 一辺が数百メートルの四角い訓練所には、ビルを模して建てられたコンクリートの構造物が一辺に4つずつ、計16棟あり、その廃墟の群れの真ん中に、ほかの構造物より頭二つ分ほど高い建物が1棟、監視塔のように、突き出して建っている。
 全部で17棟の構造物でできた”街”のまわりには、”通り”と呼ばれる広い通路が四角く取り囲み、通りの外側の壁面にとりつけられた強化ガラスの向こうから、無責任な観衆が、いまもリュウたち2人をやじっているはずだ。
 建物と建物の間にある”路地”は、場所によっては人ひとりしか通れない狭いつくりになっていて、その場所に追いこまれれば、動きを封じられて、確実にリュウの不利になるだろう。
 いまリュウのいるのは、その”通り”ぞいにある建物の屋上だった。
念のため、屋上の端から、いまさっき2人が切り結んだ”通り”を見下ろしてみるが、ボッシュの姿はもうない。
 相棒を引き離して、ほっとしたのはほんのわずかの間のことで、すぐに相手の姿が見えない不安のほうが大きくなる。
  4階分の高さの壁面にそって、下から上がってきた風が、リュウの頬をなでる。
 リュウは、そのまま大きく数歩下がり、約3メートル離れた隣の建物の屋上へと駆けてゆき、虚空に向かって大きくジャンプした。

すたん、とリュウは、次の建物に着地すると、勢いをそがずにその屋上を駆け抜け、さらに次の建物の屋上へと飛んだ。
数メートルの幅を跳躍し、足がついたあとで、リュウは背後を振り返る。
いまリュウのいた建物にも、その前の屋上にも、ボッシュの姿は見えない。
作品名:Dog_Fight 作家名:十 夜