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Dog_Fight

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”街”の角に当たるその建物の上で、リュウは進行方向を右手へと変えて、さらに離れた次の建物へと飛び移るかどうか、思案した。
決断が遅れたのは、一瞬のことだった。
リュウの左手、階下への階段に通じる四角い穴から、この屋上へと走りこんできたボッシュが、加速をつけて、リュウを薙いだ。
ボッシュの大振りな動きに、とっさに風の流れを感じ、リュウはその一撃を避けて、後ろにとびすさった。
そのまま止まることなく、リュウのいた場所へ右手から回りこんできたボッシュにはばまれて、もう隣の建物には、飛び移れない。
迷うことなく、リュウは、いまボッシュが出てきた階段へと走りこむ。
10段の距離を一跳びで、大またに駆け下りる。
落ちている、といったほうが早そうだ。
建物を模しているとはいえ、この構造物の内部には壁紙もなければ、照明もない。
むき出しのコンクリートの壁面に窓のようにうがたれた四角い穴からの外光だけを頼りに、あちこち欠けてくずれた階段を踏み外しながら、リュウは建物の出口へと急いだ。
3階分の距離を駈け降り、"通り"に面した出口を目の前にすると、リュウは建物を出るのをやめ、いま降りてきた階段の左手の壁面に身を潜ませた。
背中につけたコンクリートが、リュウのほてった背中を冷やす。
呼吸の音を止めるのに苦心するリュウの耳に、カン…、カン…、カン…、カン…、と、ゆったりとした間隔で、壁に金属を打ち付ける音が、次第に近づいてくるのが聞こえた。
訓練用の剣で、壁面のコンクリートを叩きながら、ボッシュが少しも急がずに、ゆっくりと階段を降りてくるのだ。
身を潜ませてその音を聞いていると、さっき、屋上でも感じた強烈な違和感が、リュウの中に沸き起こってきた。
背中をぞわり、となであげるような強烈な感じがした。
(これは…何だろう?
この感じ…、なんて、いうんだ?
そうだ、既視感…て、いうんだっけ……。)
自分は、確かに、いまのこの情景を知っている。
この場面を、どこかで、見たことがある、そんな確信がリュウを目覚めさせる。
リュウは、自分の感覚を確かめるため、階段の影を出て、目の前にある建物の出口から、外へと飛び出した。




17:00
”通り”へと出たリュウは、すぐ右に折れて、ふたりのいた建物と別の建物の間の狭い”路地”へと駆け込み、外壁に身をそわせて、建物の出口からボッシュが出てくるのを、待った。
落ち着いて考える必要があった。
さっき、自分の感じた違和感を、リュウはもう一度、取り出して、確かめた。
強烈に感じた違和感は、この建物の階段を、ボッシュがわざわざ音を立てて、降りてきたこと。
なぜ、そんなことをしたんだろう?
どうして、リュウに、わざわざ自分の居場所を知らせる必要があった?
リュウは、戦闘前のボッシュの態度を、もう一度反芻する。
(ボッシュは、なんと言っていたんだっけ?)
(このドッグ・ファイトが始まる直前に、俺たちは、何を話した?)
(たしか…そうだ、スタート前に、ボッシュは確か、こう言ってたんだ。)
(「思い出せ、リュウ。
全部、お前の、したことだろ?」)
(全部、俺の、したこと…?)
前日の夜に、ボッシュが口にした皮肉が、リュウの脳裏に閃いた。
(「…いくら練習したって、ホログラムの敵の動きを全部覚えてるんじゃ、実戦の役に立つのかよ?」)
リュウは、ようやくその意味に気づいて、はっとした。
既視感のわけに思い当たり、そして、すぐに背後をを見上げた。
建物の外壁にある、2階の高さの四角い窓に立っていたボッシュが、剣を振り上げて、路地に隠れていたリュウに向かって身を躍らせてくるところだった。
リュウの記憶の中で、その姿が、ホログラムの敵の動きと重なった。
そう、ここで、一度倒された。
あの夜に、ボッシュがオリジナルで組んだ、戦闘プログラムの中の敵の行動を、リュウはまざまざと思い出した。
すんでのところで飛び降りてきたボッシュの剣をかわしたリュウは、”路地”の奥側へと逃げ、地面へと着地したボッシュと対峙する。
ボッシュは、にやりと、笑った。
「今度は、よけられたらしいな?
…さぁ、走れよ、リュウ。」
ボッシュが、右手を大きく動かして剣を振り、それを見たリュウは、何も言わずにくるりと向きを変え、”路地”の奥へと走りこんだ。
いまは、ボッシュが何を考えているのか、わからない。
でも、リュウは信じた。
あの夜、ボッシュが組んだプログラムの先。
ボッシュがリュウに伝えた、その先を、見るために、リュウは走った。
狭い”路地”を抜け、リュウが向かう先に、”街”の真ん中にそびえ立つ、あの一番背の高い建物が見えた。




廃墟でできたこの”街”の中央には、ほかの建物とは頭2つ分ほども高い構造物がある。
その屋上が、前夜に、リュウとボッシュが行き着いた、あの場所。
そこに、答えがあるはずだった。
リュウは、2ブロック分の路地を走り、途中で、右方の路地から駆け込んできたボッシュの剣にわずかに先んじて、中央の広場へとたどり着いた。
やはり、ボッシュは、あの夜のシミュレーションの動きをなぞっている。
それが、からかいなのか、それとも剣と同じようにリュウに与えたハンデのつもりなのか、わからなかったが、
リュウもまた、そのルートからはみ出すことは得策ではないと思う。
もしも、あの夜の敵がボッシュの動きを元にしていたのなら、リュウはあの夜にもう、何度も敗れていたことになる。
それを身をもって体験したリュウは、いまはボッシュの導くコースに乗り、その中でチャンスを待つつもりだった。
ボッシュには、大きな誤算がある。
あの夜のリュウの相手は、疲れを知らないコンピュータのプログラムだったが、いまこの場所を駆けているのは生身のボッシュだ。
体力ならば、絶対にリュウが勝る。
リュウは、壁に映し出された残り時間を確かめながら、その瞬間――生身のボッシュが隙をみせる瞬間――を、待つつもりだった。

15:00

かろうじてボッシュを背後に引き離したリュウは、中央の構造物へと、駆け込む。
外観からは7層の建物に見えるこの構造物の中身はがらんどうで、張りぼても同然なつくりになっている。
四角くコンクリートが切り取られただけの入り口から、埃っぽい内部へととび込んで、リュウはすぐに上を見上げた。
コンクリートがでっぱっただけの、手すりのない階段が壁際にそって、ぐるぐると螺旋状に続き、天井には屋上へと通じる四角い穴が、天窓のように小さく見える。
外のライトから差し込む光が、白いすじになって、だんだんとだらしなく広がり、リュウの立っている最下部にまでは、ぎりぎり届かなかった。
見上げた光のすじの経路に、きらきらとほこりの粒子が横切っている。
リュウは、ためらわずに、壁際の階段を上り始めた。
ところどころ壁にあいている窓を横切るときだけは、足元の階段もよく見えるけれど、そうでない部分では、踏み外しそうなほど足元が暗い。
右手に剣をもち、左手をときどき壁にぶつけながら、リュウは足元を見ず、上だけを見て、勢いをつけて駆け上がる。
やがて、階段の半分ほどを上ったリュウは、建物の入り口をふさぐボッシュの影を振り返った。
作品名:Dog_Fight 作家名:十 夜