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I know what I do when

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 その、ほんの数時間後。
 最近密かに気に入っている寂れた定食屋で遅い昼食をとったライナは、人通りの少ない道をのんびりと歩いていた。
 せっかくの休みなのだから早く帰って寝たいとは思うのだが、宿への帰り道、やばいものを見た。
 団子の串を両手に掲げて死の鬼ごっこを繰り広げる、美女姉妹とライナの教え子プラス、そのガールフレンド……その光景を思い浮かべるだけで、恐怖に顔が引きつる。
「しかもあいつら、俺の帰宅ルート狙って練り歩きやがって……帰るに帰れん……」
 とそういうわけで、ライナは現在、静かに昼寝ができる場所を探してさ迷っている最中なのである。
「こんなことならシオンのベッド占領してくればよかったなぁ……でも今から戻ったら絶対仕事させられるしなー」
 なんてことを呟きながら、ふと路地裏の更に奥、野良猫しか使わないような細道に目をやる。
 と、そこには……
「……あれ、シオン?」
 見知った顔があった。
 というか、どう見てもついさっきまで執務室で書類に忙殺されていた、シオン・アスタールそのものである。
 思わず声をかけそうになったが、様子がおかしい。
 ライナが見てこそ、それがシオンだということがわかるのだが……
 高貴な生まれを感じさせるはずの銀の髪が、インクを被ったように黒い。
 猛禽類のごとく相手を射止めてしまうはず金の瞳が、その視線が、今は何故かとろけるように甘い。
 しかもその視線の先にいるのは、見るからに柄の悪そうな屈強な男たちで。シオンはそいつらと妙に近い距離で、楽しげに言葉を交わしている。
 まるでどこかの男娼のようだ、などと思ってしまって、ライナは首を振る。だがそれをさらに打ち消すように様々な疑問、仮説が脳内を駆け巡る。
 変装。
 いつぞやの男色疑惑。
 ライナの知らない、シオンの過去。
 相手の男たちの、下卑た視線。
 そしてそれを肯定するかのようなシオンの態度。
 極めつけは……数時間前。普段あれほど仕事仕事と離してくれないくせに、今日はやけにあっさりとライナを返した。しかも迎えは明日の昼だというではないか。
 休みにはしゃいでよく考えもしなかったが、これはあまりに不自然だ。考えれば考えるほどに、おかしな想像ばかりが頭をよぎる。
 まさかシオンは、王という仮面の下にそんな素顔を隠していたのではないだろうか?
 そんな、というのはつまり、こんな路地裏で如何にもな男たちに声をかけては体を売るような……
「いやいやいやいや、あのシオンに限ってそれはないって……」
 あんまりにもあんまりな想像に、我ながら呆れる。
「あの仕事馬鹿のことだから、どうせどっかの潜入調査とかだろ? 気にすることないない……」
 自分自身に言い聞かせるように声に出して、踵を返し……
「……でも、待てよ? あいつ俺以上に寝てないよな……あいつら結構強そうだし、今のシオンじゃ対抗できないんじゃ……?」
 思案し、
「いやシオンにはルシルがついてるはずだし……あーでもルシルってなんか『面白そう』とか言って黙って見てそうだしな……さすがに見殺しにはしないだろうけど……」
 更に思案し、
「…………」
 覚悟を決め、振り向いた。
 シオンと男たちが、連れ立って歩き出す。
「しゃーない。一応、追うか」
 こうして、ライナによるシオン追跡が始まった。


 
作品名:I know what I do when 作家名:紅 子