夢みる子供の物語
「いいえ、私ではないですよ。そもそも、うちで作られた物でもないです。ほら、商品説明だって英語で書いてあるじゃないですか」
「あっ……そうか。そうだよね。うっかりしてたよ。じゃあ誰が持ってきたんだろう。というか、何なんだろう、これ」
額を寄せ合ったときに、日本の肩越しに伸びてきた手が、彼の手の上から例のおもちゃをサッと取り上げた。
「なに、なにこれ〜。ゲーム? どーやって遊ぶの〜」
いったいどれだけワインを飲んだものか、すっかり出来上がって陽気にはしゃいでいるイタリアが、どうも実験台になってくれるらしい。俺はパッケージの、ずいぶんざっくばらんな説明文を読み上げてやった。
「ええとね。左手で軽く握って深呼吸したあと、適当なタイミングで側面のボタンを押せってさ」
「ヴァッベーネ! わかった〜! こうかなぁ?」
左手の中に機械を握り込んで胸元に掲げ、念をこめるように力をこめたあとぱっと開かれた手のひらを、俺たちはのぞきこむ。
「45? ですか?」
「高いのか低いのかもわかんないね、これじゃあ。平均値ぐらい書いておけばいいのにさ」
「ねーねー、俺すごい? すごかった? 日本もやってみてよ〜!」
イタリアから強引におもちゃを押しつけられた日本は、まぁ、ものは試しですね……とかぶつぶつ呟きながら、素直にそれを手の中へ握る。一呼吸おいて手のひらを開けた彼は、どう受け取ったものか反応に困るという顔をした。数値は150だ。
「ああっ、負けたぁ〜っ。くやしぃぃぃ」
「どうでしょう、勝ったの負けたのという問題なんでしょうかね、これは……」
「数字が大きいほうが、孤独度が高いってこと? それともその逆? それすら書いてないんだけど、この説明書……適当だなぁ」
「だいたいそんな主観的なこと、本当に数値化できるものなんですかね。しかも握るだけって。手のひらの表面の何かを測る、複雑な仕組みがあるようにも見えないですけど」
「あっ、ドイツが帰ってきた! ねー、ドイツもこれやってみてよー。俺、日本に負けちゃったんだよぅ」