夢みる子供の物語
ひとしきり悔しがっていたイタリアは、フロアを横切り近寄ってくるドイツを見つけると、またすぐ上機嫌になって彼を手招いた。トイレか何かで席を外していたらしいドイツは、状況がよく飲みこめないまま、断りきれずに測定器を握らされている。イタリアに言われるがままボタンを押した彼は、うろんな顔で液晶の数字をこっちに向けた。数値は28だ。してやったり、ドイツには勝った、と、数字の意味をよくわかっていないイタリアは小躍りしている。
「で、結局これはなんの数字なんだ」
「えっとねー、えっとぉ、なに? 握力? だっけ?」
「握力がこんなおもちゃで測れるはずないだろう。それとも、もっと力いっぱい握っても良かったのか?」
「ダメダメ、君が力いっぱい握ったら、壊れちゃうよ!」
慌ててドイツの手から機械を奪い返してはみたものの、出てくる数値の脈絡のなさに、俺はもうそのおもちゃに対する興味を失いかけていた。イタリアは、シャンパングラスを片手に脇を通りすぎたフランスにもそれを握らせていたけれど(結果は85)、どういう基準で数字がたたき出されているのかは、やはりまったくわからなかった。そもそも日本の言うとおり、孤独なんていう形のないプライベートなものを測ろうだなんていう発想がよくわからない。それで数字を見た人が納得するとも、場が盛り上がるとも考えにくい。恋愛偏差値測定なんかよりも、よっぽど意味不明でおせっかいな測定器だと思わざるをえない。
イタリアにつかまって輪に加わったフランスに「お前もやってみろよ」と、促された俺は、しぶしぶ自分もそのおもちゃを握った。液晶に表示された数字は「21」だった。あろうことか、ビリッケツだ。いや、あるいはトップなのか?
俺の出した数字を横からのぞきこんだフランスは「ふうん、なるほどねぇ」と、口元をゆるめた。日本は目を細めてまぶしそうに無機質なデジタル数字を眺めた。ドイツは本当にこれは握力の数値なのかとイタリアの肩を小突き、イタリアはそんなドイツにもたれて半分眠りかかっていた。俺は、何かしらを得心したらしいフランスに「意味がわかったなら、教えてよ」と言ったが、彼はよくわからないと言い張った。結局数字の示す意味は、最後までわからずじまいだった。