夢みる子供の物語
「傷ついてないよ、非難してるんだ。趣味なんてさ、理不尽じゃないか。彼の周囲の人間にとっても傍迷惑だし。どうせまた家に引きこもって、上司も側近も寄せつけなくなるんだろう。職務怠慢だよ」
「わかった、わかった。俺の言い方が悪かったよ。じゃあ、あれは、ああいうふうにしか出てこない愛情表現なんだ。相当ねじまがってるけどな」
俺は絶句して、少し苛々して、それからうっかり自分まで暗澹とした気持ちになりそうになったから、いろいろ考えるのをやめた。
「冗談じゃない、そんなこと誰に頼んでないよ」
不輸海を隠し切れずつっけんどんになると、フランスは溜め息をつくみたいに笑って「お前ら、しょうがないなぁ」と、言った。また、それだ。彼に言わせると、おいしい食べ物と可愛い女の子、それに美的センスへのこだわり以外、大方のものは「しょうがない」ことになるんだ。理由や解決策の追求は、とりあえず置いておいて。最終的にワインを一本抜いて、しょうがないことはおしまいになる。デイリーではないけれど超高級でもない、ちょっとだけいいワイン。なんだかよくわからないうちに乾杯させられて、手料理を食べされられているうちに話しが終わっていたことは、一度や二度じゃきかない。
すぐには中へ入って来ようとせず、星条旗と色とりどりの風船が飾られた玄関で、所在なげにぼんやりしているイギリスに上から声を掛けようとした俺は、やめて直接下へおりていくことにする。見られていただなんて気づいたら、逆に機嫌をそこねるだろう。入り口の近くに立っていると、廊下を歩いてくるのが見えた。たった今その存在に気づいたというふうに、俺は彼にむかって笑いかける。
「やあ。今年は来てくれたんだね」
「お前が性懲りもなく、招待状を送りつけてくるからだろ。仕方なく来てるんだ」
目の下にわかりやすく隈をつくったイギリスは、頑なに全てを拒む顔で手に提げた紙袋を押し付けると、すぐに出ていこうとした。
「あ、ねえ。ちょっと待ってよ」