夢みる子供の物語
咄嗟に彼の腕を掴んだ俺は、まだ何か用があるのかという視線を受け流し、ポケットから取り出した小さな機械をその左手に押し込んだ。ふと思いついたことだった。毎年飽きることなく、全身全霊で現実を拒む彼の孤独を数値にしたらいったいどのぐらいなのか、と思ったのだ。きっと誰よりも大きい(あるいは小さい? どっちかはわからないけれど指標にはなるかもしれない)ぶっちぎりの数字が出てくるんじゃないか……。それを確認してどうしたいわけでもなかったけれど、本当に測れるものなんだったら、見てみたいような気もした。
手のひらに押しつけられたプラスチックのおもちゃを一瞥したイギリスは、案の定妙な顔をする。
「なんだよ、これは」
「握って、深呼吸してから手を開いてよ」
「だから、なんなんだよ。どういう意味がある?」
「誰かが持ってきたパーティグッズさ。今日の運勢を占うんだよ。運試しだと思ってやってみてよ」
「なんで俺がそんなことしなくちゃいけないんだよ。ただでさえ最悪の気分だってのに」
「いいから、いいから」
本当の目的を告げれば乗って来ないだろうと思った俺は、適当な理由をでっちあげた。それからぶつくさ文句を垂れ流すイギリスがおもちゃを放り出さないように左手を取り、強引に指を折り曲げさせる。一瞬抵抗しようとした彼は、途中で馬鹿らしくなったのか力を抜いた。再び開かれた手の上の測定器の液晶に目を凝らした俺は、拍子抜けした。だって、数値は微妙に中途半端だったからだ。「62」だって。日本とフランスよりは低くて、俺とドイツとイタリアよりは高い。本当に中間ぐらいだ。
「それで? 運勢がなんだって?」
訝しげに聞いてきたイギリスに、俺は、さぁ、どうなんだろう、普通ぐらいじゃない、と答えるしかなかった。どうも、わからないことだらけなのだった。