夢みる子供の物語
疑問を残したままパーティはお開きになり、程よくくたびれて夜遅くに帰りついた自宅のベッドで眠った俺は夢を見た。ずいぶん昔の夢だった。まだイギリスにも出会う前の、本当に小さな頃のおぼろげな記憶の中の出来事だ。
生まれたての俺はとても自由で、目の前の知らない世界は光に溢れていて、これから何が起こるんだろうと思うと心がふわふわ踊るように弾んだ。呼吸ひとつにも幸福が満ちていた。
まだ力もなく、不安が全くなかったわけじゃないけれど、それよりも外へ向かう気持ちの方が強かった。両腕に余る太い木の幹や、固い土や乾いた草葉に触れる素足の裏から、大地の力強い息吹が体に流れてくる。その心地よさ。そういうシンプルなことを、誰に教わらなくても知っていた。そこは、自分の土地だった。
でもそこへ自分以外の他人がひょっこり現れて「こんなに広い何もないところに生まれて、ひとりぼっちで、さぞ心細いだろう」と、言ったのだ。「お前はこれからここで、一人で生きてゆかなくちゃならない。だから、俺が守ってやるからな」と。哀れみをこめて。俺はきょとんとした。
確かに、イギリスに近づいて行ったのは自分だった。そのときは全然わかっていなかったけれど、彼のバランスの悪さは、俺の本能に訴えかける何かがあった。普段は粗暴に居丈高に振舞っているのに、時おりどこか鬱屈した傷ついたような目をしているのが子供心にも気になって、つい「大丈夫?」と、声をかけた。俺は、身のまわりの全ての物事を、全部いい方向に持っていきたかったんだ。世界をたったひとつの正義で満たすっていうこと。どこにも悲しい人なんていないようにね。そのための努力は惜しめなかった。なんとかしたい。なんとかしなくちゃ。そういうことが自分の原動力になっていた。それは昔から変わらない。だから俺は、彼に守って欲しいなんて一言もいわなかった。
わけのわからないまま伸びてきた腕に抱き上げられ、イギリスに近い目線から自分の土地を見下ろした俺は、ふいに胸がうずくような感じがした。頬に吹きつける風はつめたく、広大な荒野は果てなく遠く見えて、急に自分をちっぽけに思った。子供なんてろくに抱いたこともなかったんだろう、遠慮がちに、ほとんどおっかなびっくり体に巻きつけられた腕はうっとうしいぐらいに温かかった。