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傍迷惑なひたむき

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06




意識の蓋を思いっきりたたき付けた後で、どうせ逃げ道のない逃避にしかならないと知っていても逃げたい状況。まさに先程の状況がそれで。暖かい何かに包まれて居心地の良い場所にいる。浅い混濁した意識の中で、自分がわかるのはそれだけだった。

目を覚ましたくない。夢の中でいたい。なぜなら、予想がつくほどの現状が待ち構えているに違いなかったからだ。だけれど、どうしてだろう。まあ、悪くないんじゃないかなあ、なんて思ってしまった自分が一瞬でもいたのは。これが絆されているってことなんだろうか。・・そうなんだろう。


「…ん、」


息苦しさを感じた。なんだか強い力に絞められている。痛くて、体がぎしぎし言っていたから、僕はようやく起きることを決意した。


まず目を開けて飛び込んできたのは、金色。
わあ綺麗だなあ。犬かなあ。寝ぼけた頭でそんなことを思っても見たけれど、実際はそこまで綺麗じゃない。色を染めていると分かる程度にくすんでいる金色が、ライトに照らされて反射しているかのように見えただけだったから。


「ここは」


呟くと金色が身じろぎして、整った顔立ちが表れる。同じように寝ぼけ眼のまま、その金色の人は、おお、と頷いてぎゅっとさらに強く僕を抱き締めた。たぶん抱き絞める、の方が正しい気がするくらいに。

「ちょっ、静雄、さ、くるし・・っ!しずおさん!」

ロープ、とばかりに腕を叩くがその程度ではこの人動揺も何もしてはくれない。胸を叩いても、幸せそうに緩く微笑むだけである。というかこの人こんな表情もできたのか。窒息という言葉が徐々に浮かび上がってくるものの、あまりに珍しすぎる表情にくぎづけだ。こんなに顔が整っているのなら、別に僕などでなくてもいいだろうに。
もはや仮説として成り立っていたそれは、目覚める前に出来事で恐らく確信に近づいていた。

「みかど」

甘えた声で自分を呼ぶ大人。これが臨也さんだったものなら、即効で鳥肌ものだろう。というか若干鳥肌が立っているのだが、それほどまで気持ち悪いとは感じていなかった。むしろ、変な感じにぞわぞわしてきているのが本当だ。


「静雄さん、いいですか、ゆっく、り、はずしてください。じゃ、じゃないと、ぼく、しにます」


その一言に静雄さんが急にハッとなって、拘束が解かれる。
眉をしゅんと下げて、一気に粗相をした後の罰が悪そうな犬になると、静雄さんはその場で項垂れて肩に頭を置いた。なんだろう、この現状は。というか一体ここはどこなんだ。

辺りを見回すと、見知らぬ部屋。自分の部屋よりかは確かに広い。広いが、そこまでリッチという風でもなさそうだ。以前訪れたことのある臨也さんの部屋とは言っては悪いが、全然違う。まあ、臨也さんが異常なだけなんだが。


「すまん、すまんな、帝人」

「いや、あの。いいです本当に」


肩口で喋られるととても、その苦しい。自分は耳あたりが弱いので、正直喋って貰いたくはない。だがそんなことを言ってしまうと、かなりの勢いで静雄さんは落ち込んでしまうだろう。目に見えている。というか現在進行形だ。


「それで、僕は一体?」

「ああ…ええとな、お前が急に倒れたから、急いで俺の部屋に運んだんだ。苦しそうに唸ってたし…看病しようとしてもよ、俺は、そのなんだ、看病される側だったからよ。弟に電話したら、とりあえず暖を取るべきだって言われてな」


社会に出て荒波に揉まれた大人とはいえど嘘をついていない時は本当に心の底から言っていると分かるので、静雄さんは厄介だった。そしていまだ会ったことのない、静雄さんの弟さんとやらも何か間違っている気がしてならない。


「だから添い寝をしたんですか…」
「おお」


呆れたのか、諦めたのか自分でも分からなかった。
ただため息が出た。


「にしても、お前は本当に脆いな。こう・・軽くきゅっとしただけですぐ弱るし」

「弱るどころか軽くきゅっと致命傷でしたね」

「そ、そうか…」


別に落ち込ませたいわけではなかったのだが、これくらい言っておかないとこの人はもう一度繰り返しそうなのでクギを刺しておく。とりあえずこの静雄さんの部屋、そして添い寝という状況から早く脱却すべく身を起こす。起こすと同時に静雄さんの腕の中へと逆戻り。何が起きた。


「うわ、」
「あ、悪い」

悪い、ではない。何がしたいんだ。
そう目線で訴えると、狼狽えた風に静雄さんが口をまごつかせる。

「あのな、その…外は危ない」

一体この人は何を言っているんだろう。
思わず唖然とした。ぎゅうと痛くはないが、しっかり腰に回った腕の力の入れ方ではっきりした。この人は僕を外に出したくないのだ。仮定だけれど。実際心中は分からなさすぎるけれど。たぶん、そうだ。

作品名:傍迷惑なひたむき 作家名:高良