それすらも、愛しき日々。
特別気にかけてもらったとかそういうのはないけど、男は何も言わず背中で語るもんだ。先輩には数えきれないくらい沢山、大切なことを教えてもらった。
サッカーに対するひたむきな情熱とか。
不器用だけど真摯な心の内側とか。
人間の強さと弱さ。
女の子の心をひっつかむ流し目のコツも。
あぁぁ、三上先輩っ、一生ついて行きます!
先輩がうち(中等部)を出てっても、この俺が立派にチームを引っ張っていきますから!!
…………でも俺……司令塔は、無理っぽいんだよね………。
何が何でも何をしてでも先輩の10番を受け継ぎたかったけど。
安岐がいるからなぁ。あいつは背が174あってちょっと無口だけどまぁそれなりにモテそうな眼鏡くんだし、なんつーか三上先輩の跡を引き継ぐからにはそれなりのビジュアルが必要っぽいけどこいつならオッケーの気がするし、少なくとも俺よりは顔のいい奴だし……。
いや、ルックスがどうのこうのより、まず俺よりあいつの方が司令塔向きだし…って素直に認めてどうすんだよ……。
えぇい、俺はっ、俺は司令塔の三上先輩に憧れてるんだ!
けど自分でもサイド向きだって、じゅーぶん分かってるんだ!
こうなったら10番だけでもいただきたいところだけど、うちの監督なら絶対、MF・真ん中・司令塔・10番だからなー。それでいいんだけどさ。いや、よくねぇけど。
つーか、それ以前に、そんな話はレギュラーに確定してから言えよーッ!!
色々テンパっているうちに先輩のが終わったらしい。
ガコガコと洗濯物を取り出している。
………………。
先輩、黒の服が多いよな……。
いいよな、黒がビシっと決まる人って。うちのジャージもどうせなら真っ黒にすりゃいいのに。どうせユニフォームも黒いんだから…これ以上黒くなったら駄目か…。
しかも先輩は、首まわりの空いたやつが好きらしい。あ、ウィルソンのシャツじゃん。ほんとブランドにこだわりないみたいだ。
けど、ミズノを着てんのは見たことないな。俺はミズノ好きなんだけど……。
あれ?
ん!?
はぅああッ!
もしかしてあの、首の下のちょっと横の方にある赤い痣は…
キ・ス・マークぅぅぅぅ!?
…………………。
カッコいい…っ!
彼女がいるとか聞いてないけど、やっぱいるんスね!しかももうヤっちゃってる彼女が!
作品名:それすらも、愛しき日々。 作家名:あおい