それすらも、愛しき日々。
手を止めて中西先輩が振り向く。
「お取り込み中」
「………………」
「だってこいつがパ」
「言うなよッッ!」
無礼を承知で俺は、中西先輩から〇〇〇をもぎ取り、ハーフパンツのポケットに突っ込んだ。
自分でも顔が火照っていることが分かる。おまけに涙目だし。あぁ情けない。ずずっ…。
本気で憎しみを込めて睨みつけると、中西先輩はひょいっと眉を上げて、それから両手を胸の前まであげて左右に振った。
「悪い悪い。ちょっと遊びすぎたわ」
悪びれもなくそう言うとランドリールームを出て行った。
はぁ。はぁ。はぁ。
ちくしょう、あの人だきゃー手に負えねぇ…ッッ!
「……大丈夫?」
「え…あ」
天の助けは笠井だった。
俺は今、心からお前に感謝の意を捧げるよ…。笠井。
「来てくれて、マジ、助かった」
「……うん……」
恩着せがましくなくそれだけ言うと、笠井は自分の持ってきた洗濯ものを洗濯機に入れ始める。
うぅ、お前ほんといい奴だなぁ。
……あれ?
そこは俺が使おうとしてた…!
ていうかパ…っ……コレはどうすればいいんだ!?
よく考えれば、よく考えなくても、三上先輩が残していったものということになる。それはその……アレなんだろうか?ナニなんだろうか?ソレなんだろうか?
………………。
分かんねぇよ。もしかして三上先輩のものなのか!?がーん!!
……いや……キャプテンのものかもしれない。でも、こんなのいくら同室で仲がいいったって、三上先輩に洗わせるか!?ていうか持ってること自体ちょっとおかしいだろ。たとえ彼女のものでもだとしても!
………………まさか自分の…ぐふッ
まぁそれは問題外として、実は三上先輩がわざと置いてったという可能性もあるぞ。取ろうとしたときに気づいて、そのまま放置していったという可能性が。
ふむ。心の平穏のため、この線で考えておこう。
ブツは寮長に渡せばいいだろう。辰巳先輩なら何とかしてくれそうだ。
やっと気が晴れて顔を上げると、なぜか笠井の視線と噛み合った。
「あのさ……」
「え?何?」
「………あんまり気にしない方がいいよ」
困ったような笑い方をする。
お。珍しいな。
「犬に噛まれたと思っておけば」
「犬に噛まれてもじゅうぶん痛いけど…って、何の話?」
「さっき、中西先輩に……」
「…あぁ…」
作品名:それすらも、愛しき日々。 作家名:あおい