はじまり
自分が戦っているときの記憶は、いつもおぼろげなものだった。
向ってくる敵機の気配に、意識を集中して覚悟を決める。
狙いを定めて速度をあげ、
敵機と視線を交えた後の。
その次に覚えているのは、全てが終わった光景だった。
周りにひとつも飛んでいる機体などなく、
視線だけを下にやれば地上に壊れた無残な姿か、
海面から一部だけ飛び出た破片しか見当たらない。
青い空だけが、自分の目の前にあった。
その時になってようやく、自分の身体のどこかが鈍く痛むことに気づき、
怪我をしていることに気付く。
その繰り返し。
意志など、なくともよい。
命令が下るままに手足を動かし。
向かってくるものを敵だと認識しないままに刀を振ることだって、よくある。
一日が昼と夜でできているように
自分の人生は静と動でできているに違いない。
どちらにも自分の意志なんてものは必要なく。
また、必要とされていないことも分かっていた。
「…」
行為に、意味などない。
ただ、自分を敵だと認識して殺そうとする相手の息の根を止めること。
毎日を、そのために生きている。
この無限に続くかのようなループを、断ち切ろうと思わないし、
断ち切りたいとも思わない。
たぶん、いや、おそらく。
自分は、これでいいと思っている。
――生きている、とはなんだろう。
誰が何を言おうとも、これが自分の日常だ。
これ以外に、やれなければならないことなどなく。
したいこともない。
ループが永遠に回り続けることが。
それ以上のものを自分から求めることもない。
どんな例外も、突発事項も必要ない。
生きているというのが、呼吸をして世界を感じることだというならば。
自分はその条件を満たしている。
けれども、生きていることがさらなる感情や想いや
それゆえ生じる選択を迫るものであるとするならば。
(きっと、僕は)
生きることを放棄している、のかもしれない。