はじまり
瞳を開ければ、真っ青な空が遥か高いところに見えた。
頭の芯が、どこか鈍く痛むような気がして、そのままぼんやりと宙を見ていた。
記憶が徐々に確実さを増してゆく。
(そうか…)
いつものように戦っていたら、
目の前に突然、強烈に白い光が見えて。
その瞬間、何かがすごい勢いでぶつかってきたのだ。
「…ッ」
人知れず、はっと息をのんだ。
動かそうとした、身体のどこも動かすことができない。
それこそ、指先までも。
焦る心とは裏腹に、どんなに神経が動けと命令を下しても、
全く言うとおりにはならなかった。
(あ…)
胸元に、無線がある。
けれどもそれは、ただ自分が誰かの声を聞くためのもので。
自分の声を伝えるもの役割は果たせない。
いつだって自分は、受信する側だった。
全身を酷く打ったに違いない。
でも痺れているだけで、少し休めば動けるようになるはずだ。
そんな想いを胸に抱き、今はただ空を見上げた。
――人はなぜ戦争をするのだろう。
何かを守るためという理由は、ただの偽善だ。
守りたいもののために、殺し合いをするというのはどう考えても矛盾している。
自分が殺した相手にも、その人の帰りを待ち焦がれているはずの誰かがいて。
自分が殺した相手が、もう二度と帰ってこないと哀しむ人は多くいるはずだから。
哀しみを生み出す行為が、大切なものを守れるとは思わない。
欲に目がくらんでいるか、全てを犠牲にしても得たい何かが
戦争をすることで手に入るとでもいうのだろうか。
(ただ…)
自分には、何もないから。
守りたいものも、張らなければならない意地も。
欲さえも、何もない。
「…」
こんな想いを、発散する言葉を自分は持たない。
全てをそっと胸の内に閉じ込めてゆく。
それでもきっと、心は壊れない。
だって、幼いころからずっと、そうしてきたのだから。
そのとき、だった。
ガサリと地面が擦れる、音がした。