狐の婿入り
「兄さんは日本の夏を甘く見過ぎていたんだろう。」
「まぁ~、ここまでだとは思わなかったけどな。お前だって、それなりだろ?」
「それは・・・そうだが・・・」
茶筒の蓋を上げ、弟が茶を入れる段取りを始めた。風体は完全に外人な弟の筈が、その所作がまるで日本人のそれで奇妙な違和感が拭えなかった。熱いお茶は勘弁願いたいと、冷蔵庫を漁ると冷凍庫に氷があった為、これ幸いとグラスに氷を放り込んだ。
「このポットもグラスも、ドイツのとは全然違うよなー。当たり前だけどよ。」
「兄さん、これは急須と湯呑と言うんだ。」
すかさず訂正を入れる弟に唇を尖らせ、「俺はお前程日本マニアじゃねぇんだって。」と言うと、弟は明らかな溜息を洩らした。