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マルナ・シアス
マルナ・シアス
novelistID. 17019
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【東方】東方遊神記12

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ここで、なぜ美理が椛にここまで執着しているのか、その説明も兼ねて、椛の生い立ちについて話す。
今の幻想郷から、幻想郷年月にしておよそ二百年前、犬走 楓という白狼天狗と、人間の娘の銀杏【いちょう】の二人がいた。楓は当時狗賓衆の筆頭であり、主に人里に技術や御山の意向を伝えたり、逆に御山に人間たちの陳情を持っていったりする仕事をしていた。天狗界における狗賓の位置は前述したとおりだが、楓は文武両道で、理不尽なことにはたとえ大天狗の命令でも臆せず自分の意見を述べるような熱い魂を持ち、人里では人間を見下したりせず、本来自分よりもずっと若いはずなのに、自分と比べて外見的には年上に見える人々には、目上の者に対する応対をした。そして、誠実で明朗快活な性格も相まって、里の人間から絶大な信頼を得ていた。
一方銀杏の方は、小さな子供の頃から楓と知り合いで、楓が忙しくない時などはよく遊んでもらっていた。やがて、銀杏の方はみるみる大きくなり、美しい娘に成長した。そして成長するとともに、銀杏の楓に対する思いも、好意から恋に変っていった。楓の方も、美しい女になった銀杏のことを意識するようになった。
しかし、天狗界には一つ、絶対に犯してはいけない禁がある。それは、他の種族と交わり、天狗の血を汚すことである。この禁を破ったものは、天狗側は本人を含む一族郎党悉く斬首になり、相手側も大きな制裁、場合によっては暗殺といった形をとる。これは天狗界に古くからある天狗至上主義思想からくるもので、高貴で、妖怪最高の血脈である天狗の血に、他の下等な血が混じるなど言語道断といった考えである。楓もそれがあるため、銀杏につらい思いはさせたくないという理由で自分の思いを必死に殺していた。しかし、会う時間が増えれば増えるほど、お互いの思いも大きくなり、遂に二人は一線を越えてしまう。里の人々は、お似合いの二人だと皆祝福してくれたが、このことがもし天狗たちにばれれば、大変なことになる。楓は銀杏に事情を話し、二人はこのことを天狗の里には伝えず、隠し通すことにした。
やがてまた月日が流れ、銀杏が楓の子供を身籠った。当然妊娠すれば時が経つにつれてお腹が大きくなる。この当時、たまたま伝達事項を届けに人間の里まで来ていた御山の天狗が、お腹の大きい銀杏と楓が中睦まじく二人で歩いているのを見てしまった。これはもう不運としか言いようがない。驚いた天狗はすぐさまこのことを大天狗に報告。そしてあっという間に天魔の知るところとなってしまった。天魔と大天狗幹部連は、一族始まって以来の恥事として、すぐに大評定【だいひょうじょう・天狗たちの最高議会。この会議で決まったことは100%実行される】を開き、この問題を取り上げた。幹部たちは殆どが規約通り一族郎党悉く斬首、そして人間どもにも制裁を加えるべきだという意見でまとまっていた。しかし初代天魔は、楓のことを骨のある人物だと買っており、しかも自分に仕えてからこれまで一度も落ち度がなかったので、なんとか助けたかった。しかし、だからといって個人的感情で自分の考えを押し通すと、組織が瓦解【がかい】してしまいかねない。それに、実際問題楓が行ったことは天狗界では最も大きな罪である。殺人、この場合は天狗だが、それよりもだ。
長い話し合いの結果、楓には切腹を命じ、銀杏およびその一族はお咎めなし。しかし銀杏のお腹の中にいる子供を含む犬走の一族を御山の里から永久追放という裁定に落ち着いた。
その楓の切腹の際、介錯人【かいしゃくにん・切腹をする人に寄り添い、その首を切る役人】を務めたのが、当時の美理なのである。つまり、表面だけを見れば楓にとどめを刺したのが美理である。彼女は、狗賓ながらその類まれな才能と、上の者に媚びず、人間からも慕われていた楓の噂を聞いており、直接会ったことが無いながらも楓のことは尊敬していた。そんな楓と初めて会う機会が、こんなことになるとは、どんな運命の悪戯か。 
切腹をする日に、彼は、悔いは何もないが、残していく銀杏とお腹の子供、自分たち夫婦の名に因んで『椛』と名付けた、まだ女の子か男の子かもわからない子供のことだけが気がかりだと話したので、二人の面倒は自分が責任を持って見ると、美理は自ら買って出た。それは、執行までの短い時間の中だけで、犬走 楓という人物が、自分が想像していた通りの尊敬すべき人物だと感じたからだった。美理の言葉を聞いた楓は、美理に深く感謝し、理不尽ながらも潔く切腹。美理の介錯を受け、天狗としてはまだまだ短いその生涯を終えた。
それからしばらくして、ある天狗がこの一連の出来事の一部始終を新聞にして発行し、里中にばらまいた。これがもとで、里の天狗たち皆がこの出来事を知ることになる。