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ぶりたにあ・えんじぇう☆★

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「そうですか。それで、どうでしょう?」

ピンッ、と背に力を入れたセルティは、祈る様な気持で菊の言葉を待つ。
一切表情を崩さない新羅の落ち着きぶりを見ても、セルティは心が静まらなかった。
セルティも、本当は小さい頃から慕っている菊の方が良いのではないだろうかと、思っていたからだ。
新羅、そしてセルティを順に見遣った菊は、ゆるりと微笑むと、小さく会釈をした。

「帝人を、どうぞ宜しくお願い申し上げます。」

わっ、と飛び上がって抱きついて来たセルティに、新羅が抱き返し、菊が苦笑、帝人は不思議そうに目の前の2人の様子を見ていた。



 和やかに4人で茶を飲んでいると、ドタドタと騒がしい足音が玄関から聞こえて来る。
額を抑えて溜息を吐く家主だが、彼等の騒々しさがそれで無くなる訳もなく、バタンッ、と開け放たれた扉からは、長身の男2人が雪崩れ込んで来た。

「帝人君こんにちは!臨也お兄ちゃんだよ!!」

「うぜぇな早く退けクソ野郎!ってか竜ヶ峰に触んな汚れるだろ!!」

「……君等さ、もう少し静かに入って来れない?」

この2人に常識を問うても無駄だと分かりながら、新羅は苦言を呈すに他無い。
今日は客人も居ると言うのにコイツらは、と叱りつけようとして、ハッとセルティは菊を見た。菊は目を丸くして2人を凝視している。
セルティは背に冷汗が伝う心地を味わった。幾ら岸谷家に帝人を預けても良いと言ってくれたとしても、この野獣のような危険人物達が出入りする場所だと知れたら、前言撤回されるかもしれない。

『あっ、その、これは、あの―――・・・』

上手く言葉にならず文章を詰まらせるセルティを見、菊は苦笑した。
帝人はと言えば、臨也と静雄の遣り取りを面白そうにケラケラ笑いながら見ている。
セルティの様子に、言いたい事が分かってしまった菊は苦笑すると、緩慢な動作で立ち上がり、セルティの肩を叩く。

「御安心ください。帝人をお願いしたいと言う気持ちは変わりませんよ。」

言って、池袋の喧嘩名物の許へと菊は向かって行く。

「帝人。」

騒々しさの中にあって尚、万人の耳に届く様な凛とした音で名を呼ぶ菊の声に、帝人はきゅるりと目を瞬かせると菊を仰ぎ見た。
全身で敬愛を顕す帝人を愛おしげに見詰め、菊は帝人に視線を合わせるべく腰を下ろす。
下らない口論を繰り広げていた良い歳をした男2人はそこで初めて菊の存在を認識し、驚きに目を瞠っている。

「はい、きくしゃま。」

「私はそろそろお暇致します。岸谷さんとセルティさんの言う事を良く聞いて、良い子にしているんですよ。」

「えっ…きくしゃま、もうおかえりになるのですか?」

「はいっ。これから帰宅、仕度して、明日の朝一でアメリカへ飛ばなければなりません。暫く会えませんが、元気にしているんですよ?」

菊が小指を差し出すと、一瞬寂しそうに眉を下げた帝人だったが、素直に小さな手を差し出し菊の小指と絡めた。
指切りげんまん 嘘吐いたら針千本飲ます 指切った
軽やかに奏でられる、テノールと甘いソプラノのデュエット。双方指を解くと、惜しむように一度帝人は菊に抱き付き、離れた。

「きくしゃまも、がんばってくだしゃい。」

「お土産買ってきますよ。何が良いですか?」

んと、と首を傾げて悩んだ帝人は、にぱっ、と笑むと、元気一杯に挙手し。

「あかとかぴんくとかきいろとか、すごいいろのついたおかしじゃなかったらなんでもいいです!」

「………分かりました。と、言うより、絶対買ってきませんから安心して下さい。」

バイバイ、と手を振る帝人に見送られ、菊は暇の挨拶を告げると、一同に会釈をして岸谷家を去って行った。



「…誰、アレ。なんであんな帝人君が懐いてんの赦し難い。」

「間違ってもテメェに懐くよりはマシだが…竜ヶ峰のあの慕い様は一体…」

無駄な対抗心を燃やすこのどうしようもない男達を放っておいて3人で家族の食卓を囲むには如何すべきかと、夕方、頭を抱えた新羅が居たとか居ないとか。