いつまでも醒めない夢を見ている
「オトヒメ、さむい? なに」わたくしの怯えが伝わったように、姉姫がにわかにおびえて、わたくしの手にふれた。「だいじょうぶよ」
双子として、同じ時に生まれた姉妹。自分が姉であるという自覚があったのだろうか、姉姫は、私の手を握り、慰めるように、そっとなでた。
そうしてもらっても、私の手の震えは止まらなかった。怖ろしい。垣間見えた未来。それをきっかけとして、身体中にまるで自分のものではないような力が満ちていく。
そして、わたくしたちの運命を悟った。生まれた時から、わたくしたちを脅かしていたものが、にわかに姿をあらわし、双子の姫を呑み込もうとしている。古い言い伝えに知る、七首もある大蛇のように。
母である巫女姫の預言。自分の産む子、禁忌の恋の末の双子姫、その運命。まるで麻糸のようにからんだものがいまとつぜん解かれようとしている。
今、みた、光景。
口にしなければならない。それが佐保の巫女姫、引いては女首長となる身のつとめだ。心の内、この身に流れる佐保の首長の血が、そしてこの身体に息づく霊力がしきりに叫んでいる。佐保の族人をまもる為に、この霊力は使われねばならない。
けれど。駄目だ。今、自分がそうすることが、どんな意味を持つのか、わたくしにはわかった。
とつぜん大人びたように、何もかもを知っている。理解している。佐保の国内の全てを透かし見えた。巫女姫の死、そして双子姫が産まれた時の、族人のおびえ。
自分たちが産まれたとき、自分たちの産屋に詰めていた年老いた巫女の心が、酷いゆれのように襲ってきた。
(
そうだ。どちらも力を顕さなければいい。
なにかに急かされるように先程の預言を口にしたくなる。
お願い。姉姫。私の手を握っていて。私が不安に憑かれて、口にしてしまわないように。すがるように手を掴み、その小さな手と小さな手を、遊びのように絡めた。姉姫が昼間のように、きゅっと力を込めた途端、温かいような気持ちが流れ込んでくる。
(ダメ。オトヒメ、いう。いわない、ダメ)
(だめ。オトヒメ。オトヒメ。アユチ、やさしい。だから、だめ)
ふいに、姉姫の声が、心の奥に撲つように伝わってくる。族人を愛しむ心が伝わってきた。
それは佐保の王族の姫には相応しい心の有り様だった。それに引き摺られるように、押し込んでいたいとおしさが浮かんだ。
作品名:いつまでも醒めない夢を見ている 作家名:松**