裏密ロマンス
当たり障りのないふつうのラブレターである。
特に人の心をうつような言葉が綴られている訳でもなく、かといって先だってのように呪いがかかっている訳でもない。端的に要点をまとめただけの手紙だが、これで十分事足りる。
あとは渡すだけ。
それが大問題だった。
「また来たのか…………」
今度という今度は如月は不快感もあらわにした。
大体彼等が群れをなしてやってくると何かといらん目にあってしまうのだ。しかし哀しいかな、彼もまた裏密に抗する術など持っていなかったのだ。
まあ、確かに、気の毒ではある。でも、オレも不幸なんだよ。
「いやさ、オレたちの血と汗と涙の結晶、ラブレターなるものができたのでな」
そのラブレターは現在裏密がなくすまいとしっかり手に持っている。
それをまるで忌むべきようなものを見る目で見た如月は押し殺した声でオレに向かってこういった。
「死人がでなかったか?」
侮りがたし、如月翡翠。
飛水家三千年(当社比)は伊達じゃないな。
「約一名、生死を彷徨った」
「やはり…………そんなものを世に放していいのか?」
「大丈夫、六千倍に薄めてあるから、よっぽどの事がない限り大丈夫だと思うけど」
「思う、…………ね。やつが心臓病でなければいいんだがな」
「…………そんときは、任せた」
「やっぱりしりぬぐいさせられるのか…………」
巷に若旦那と称されて名高い彼のまなじりに涙が浮かんだ。
「あ! 来たよ!!」
小蒔の声に店内が緊張した。
ついに赤頭巾ちゃんが狼の家までやってきたのだった。
「頑張って、ミサちゃん」
「ファイト!」
女性陣はこぞって裏密の後押しをしたが、男性陣はこれから彼に襲いくる不幸の事を思うと同情を禁じ得ない。
「それじゃ〜はじめるよ〜」
なんか間違ってないか、それ?
裏密は店から飛び出して御堂を呼び止めた。
「そこよ、ミサちゃん!」
呼び止められた御堂は心なしか青ざめているように見えるのは気のせいか…………いや、きっと気のせいに違いない(希望的観測)。
そしてついに呪いの手紙、もといラブレターを手渡そうとしたその時!
彼方から飛んできた一羽の白い鳥がそれをついばんだ。
「あ!」