裏密ロマンス
そして二人の間の火花はますます激化する一方である。
「こ〜なったら〜、い〜で〜よ〜醍醐く〜ん!!!」
裏密の高く掲げられた右手の先からぐるぐると怪し気な黒雲が渦巻いて、そこから白目をむき、口から泡を吹いた醍醐がでろりとはい出した。
「だ、だいごぉおおおお!!!」
おれたちを裏切った酬いだとか、てめえ、夏になると暑苦しいんだよとか、とっととエロビデ返しやがれとか、そんな気持ちはつゆ程もない。
ただただ、醍醐が哀れで…………。
「そ〜し〜て〜、おいでませ〜きょ〜いちく〜ん」
ピカッと裏密の双眸が輝く。
「あわわわわ! た、たすけてぇ、ひーちゃあああん!!!!」
見えない、屈強な手が確実に京一の足を捕らえ、引き寄せていた。京一は恐怖に体が竦み、それに抗うことができなくなっている。助けを求めて一心不乱になってオレに手をのばす。しかしオレが裏密の邪眼の前にかなうはずもなく、京一は連れていかれた。
ごめんよ、京一!
「いくわよ〜」
ボッと青い炎が魔法陣を描く。
その中心に放り込まれた二人は、もうマトモに正視できないくらい気の毒だった。
京一など涙を流さんばかりだし、醍醐にはもはや意識はなかった。
「く〜ら〜え〜」
ずどおおおぉん
そこに火柱が上がった。
以下略。
そこは惨憺たる悪夢のただ中にあった。
何の罪科もない人々が生命の危機にさらされ、阿鼻叫喚の叫びがこだまする。
家屋は倒壊し、如月の家は見るも無惨な有り様。美里は回復をしつづけて疲労困憊だし、他の皆も巻き添えを喰らって無傷とはほど遠い。
「はあはあはあはあ」
「ふ〜ふ〜ふ〜ふ〜」
互い体力の限界にあった。
肩で息をしながら体で感じ取っていた。次の一撃ですべてが決まる、と。
「フフフフ、さすが裏密さん。なかなかやりますね」
「御門くんもね〜。で〜も〜手加減は〜なし〜」
まるで宿命のライバルのような台詞。
だが、
頼むから少しは手加減してくれ!!!!!
何も稀代の陰陽師と魔女が本気でぶつかりあうことはないだろう!!!!
しかしオレの叫びも空しく二人は再び構えをとった。
ひゅうう、と砂塵混じりの風が二人の髪をなぶる。
「これで最後です!」
「そ〜れ〜は〜こっ〜ち〜の〜台詞〜!」