裏密ロマンス
立ち枯れた木から、一枚の枯れ葉が風にのってこちらへ飛んできた。そしてそれが二人のちょうど真ん中に落ちてきた時。
閃光が走った。
一瞬の間に二人がそこからとび退る。するとさっきまで二人のいた場所に青い雷が落ちた。
着地した瞬間どちらも同時に最大の術を放つ!
「ソロモンの大魔道書!」
「四角四界・鬼邪滅殺!」
互いの体から震える二つの大きな術が輝く軌跡を伴ってぶつかった。
衝撃の光が辺りを一瞬白で埋め尽くす。
二つの術は相殺することもなく、どちらかがもう一方に呑まれる訳でもなく、ギリギリとせめぎ合い押し合い、膠着する。一歩も動けない。あとは術者の精神力次第の持久戦となった。
そう長くもなく、短くもない、しかし当事者(オレたち含む)にとっては途方もないくらい長い時間。
「ううう」
「くっ」
じっとりと御門の額に汗が伝う。
裏密の顔に苦悶の表情が浮かぶ。
そのどちらも術に長けて、力も均衡していたためになかなか決着がつかない。気力だけがじりじりと削り取られてゆく。
ハラハラとギャラリーが見守る中、刻一刻と時は過ぎる。
「負けないで、ミサちゃん」
美里は裏密サイド。
「晴明様…………」
もちろん芙蓉は御門についた。
そしてあとの残りの人間はどうでもいいから早く終われと中立に立った。
「あ!」
瓦礫に体を預けて見守っていた小蒔が声を上げた。
なんと、ひざをついたのは御門だった。
「晴明様!!」
均衡がやぶられて裏密の術が御門の術を飲み込んで、襲いかかる!
どん!!
御門のいたところに一気に光が収束して弾けた。
「ミサちゃんの〜勝〜利〜!」
様々なものを巻き込んでその屍の上、ついに裏密はラブレターを取り戻したのだ。(蛇足ではあるがこのラブレター、あれだけの術を喰らいながらも傷ひとつついていなかったという…………)
裏密はラブレターを手に瓦礫の山を踏み越えてゆく。
一歩、一歩。
その先に怨敵…………じゃない、最愛の男、御堂和馬がいる。
御堂和馬とて無傷ではなかった。裏密の近くにいたため一度は生死を彷徨い、美里の尽力によって救い上げられたほどだ。
「御〜堂〜く〜ん」
辺りは未だ惨劇の爪痕が色濃く残っており、ブスブスと家屋が燻っていた。
それを後押しするような、半ばイッてしまっている如月の笑い声。