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【ヘタリア】 王様と俺様 1 Preußen Blau

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「言いたい奴には言わせておくさ。現に私はそういう行為をしてきたのだからな。甘んじて非難は受けるさ。だが、私の相手をしたからと行って、国政に口を出せるなどとは思わせん!」
「・・・・・それはいいさ・・・。じゃなくて、王妃様だよ・・・・。ほっといていのか?」

「・・・・・妃か・・・気の毒だが、私は彼女に興味が持てない。彼女だけではない・・・私が愛している女性は・・・・・。そんな事はお前が一番よく知っているだろう?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

ギルベルトとフリードリヒは黙り込んでしまう。
*********************************


遠い記憶の中の、あの美しい王女の姿を思い出す。


オーストリアの王女。
母譲りの美貌に、勝気な男周りの性格。
人を引き付けずにはいられない、明るさと天性の魅力。
それでいて、話す時の、優しい人への気配り。

子供だったフリードリヒは、彼女との婚約の話を聞いた時、天にも昇る気持ちだった。
オーストリア帝国とプロイセンが一緒になって、分裂して争いを繰り返す神聖ローマ帝国を「ドイツ帝国」へと変貌させる夢も早々と心に浮かんだ。
あのマリア・テレジア王女と自分が結婚すれば、それもかなう。
そして、あの美しい王女となら、幸せな家庭をもてるのではないか・・・・。

そんな幻想は、全て打ちくだかれた。
マリアが恋しているのは、フリードリヒの友人であり、ハンサムだが軽薄な明るさが取り柄の男だった。彼の良さを知っているだけに、つらかった。

婚約の話はなくなり、フリードリヒは、イギリスの王女と結婚させられそうになった。それがきっかけとなって、父の元から逃亡を図ったが、それは失敗し、かけがえのない友人を失うこととなった。

それからフリードリヒは変わった。
父にはいっさい逆らわなくなったが、笑うことも無くなった。

父王のもとから離れて暮らせるようになったのは、意に染まぬ結婚を強いられてからだった。

フリードリヒの王妃は捨て置かれ、今もみじめな生活を送っている。
それについて、ギルベルトは気の毒としか思えないのだが、フリードリヒはそういう点では冷酷だった。

王妃を見る目は限りなく冷たい。
フリードリヒは凡庸な人間を嫌う。
彼の兄弟姉妹は皆容姿も良く、なにかしら、非凡な才があるのだ。

そんな中でまだ17歳の少女だった王妃はつまらない女性に見えたのだろう。

なんでもフリードリヒに従うといったおとなしい性格もまずかったのかもしれない。
手ごたえのない、つまらない人間、と王妃は国王に思われてしまったらしい。

それから王妃は、遠ざけられ、表には出てこない影の存在として終わる。
それでも彼女は国王を慕い続け、夫よりも長生きして生涯を終えるのだが。

ギルベルトからすると、王妃は善良で美しく素直な優しい女性で、フリードリヒを幸せにしてくれる女性と思ったのだが。

心に決めた女性以外は受け入れられない・・・・・。

ギルベルト自身にも身に覚えがあるだけに、フリードリヒに、とやかく言えなかった。


 「どうして、私達は、絶望的な恋をあきらめられないのだろうな?」

以前、フリードリヒが自嘲気味にギルベルトに言った。

若い王子の絶望的な初恋・・・・・・・・。

そして、ギルベルトの恋・・・・・。

恋を自覚する前に終わってしまった恋・・・・。
手に入れることがかなわないのに、思いきることが出来ない恋・・・。


いずれの相手も、すぐ隣のオーストリアにいる、という事実が心の苦しさを増す。


オーストリアはゆるぎない大国であり、共闘するには仲が悪すぎる相手・・・・・。

マリア・テレジアはフリードリヒの友人と結婚し、幸せにくらしている。

きっと、「彼女」もオーストリアと・・・・・。

思いきれない心を抱えて、男二人で自らの愚かさを嘲笑する・・・・・・。
そんな共通の思いは、誰知ることもない、二人だけの秘密だった。


フリードリヒはマリア・テレジアが次々と女の子を出産するのをあてこすって皮肉を言う。
その心の中の複雑さは、ギルベルトにも計り知れない時がある。
恋する相手は、生涯の宿敵となって生きていくのだ。
憎むべき相手として、相手の心に、自分を刻みこむ・・・・・・。

そんな恋し方もあるのだな、とギルベルトはフリードリヒが世を去ってから一人思ったものだった。


絶望と言えば、相手が人でないだけに、ギルベルトの悩みは永遠なのかもしれない。
人であれば、有限の生に阻まれて、相手は先に逝く。
それであればあきらめられただろうか?

「国」に恋したギルベルトの苦しみは永遠に続くように思える。

では、他の誰かを、とは簡単にはいかないから、二人はいつまでも苦しいのだ。

 「俺達が愚かだからさ。」

ギルベルトは国王に答える。

「ふ・・・・愚かか・・・・確かに愚かだな・・・・・・。」


愚か者の恋は、むなしいため息を何度も伴って、これからも続くのだ。



*****************************


「ギルベルト?どうしたね?返事をしなさい。お前が嫌がるような事はもう起きないよ。
お前の部屋は、私の部屋とは反対側の端に作ろうと思っている。
いつお前が抜け出してもいいようにな。」

「フリッツ・・・・・・。俺が馬小屋とか、軍の兵舎に行くのは、宮殿が落ち着かねえからなんだぜ。お前が誰を相手にしようと、俺は気にしねえし、お前も俺に遠慮しなくていいし・・・。」
「・・・・まあいい。とにかく、この城には10部屋しかないんだ。
住む者は限られる。だが、お前の部屋はいつでも開けておくから、気が向いたら来るといい。」

「まあ・・・・城が出来てから考えるよ・・・。」

気乗りのしない様子のギルベルトは幼く見える。

「あ、この城、遠乗りしたり、剣振り回せるところあるのか?そういう場所がねえと、俺、暮らせねえぜ。」

「ここは元々狩猟場だから、広大な森があるよ。お前が馬で駆けまわっても大丈夫だ。」
「ふーん。お前が設計図まで描いてんだもんな・・・・・・。さぞかし、きれいな城になるんだろうな・・・・・・。」

「フランスから、工芸品を取り寄せてな、城の中を飾るのだ。そんな顔をするな、プロイセン。いずれはプロイセン製の美しい美術品であふれるようにして見せるさ。
今は・・・な。まだフランスには追いつけまい?」
「わあったよ!俺もフランス語覚えるよ!だけど、あいつには内緒だかんな!ほんとにあいつは、いっつも俺をじろじろ見やがって、かんじが悪いったら・・!!」

「フランスは、美しい顔して策略家だからな・・・・。お前は思っている事が顔に出るから・・。向こうに悟られないようにしないとな。」
「俺は単純に出来てんだよ!戦って勝つか負けるか・・・・・それしか知らなかった・・。」

フランシスの話になると、ギルベルトは怒るかそっぽを向いてしまう。
それがギルベルトの持つ大国フランスへの引け目なのだが、自覚はしていないようだ。

なんとかギルベルトが誇りを持って彼ら「大国」と堂々と渡り合えるようにしてやりたい。