籠を発つ鳥
そこからの彼らの行動は、大人も目を見張るほどだったという。
「エドがね、あまりにも突拍子もないこと思いついちゃったの」
「けど兄さん、よく思いついたよねぇ。ボクは良い考えだと思ったけどなぁ」
「だろ?」
「…アル、あんたエドのこと甘やかしすぎ」
少々タチの悪そうな笑みを浮かべて顔を見合わせる兄弟に、呆れたような表情の彼女がつっこむ。
───と、いうのが。
僕の屋敷から戻った彼女から話を聞いたエドワードさんは、僕をあのひとの手が届かない場所へ移すため。
国王にかけあって、僕の籍をハイデリヒ家から移動させていたのだ。
「足場を固めてから、胸を張って行きたかったもんね」
「けど、手続きするのに半月もかかっちまったんだよな。大人ってこういうときに融通がきかねぇから困るぜ」
「融通とか、そういうレベルの問題じゃないと思うわよ?」
移動した先は───エルリック家。
つまり僕は、いつの間にか王族の一人になっていたのだ。
「今のところはまだ”仮の養子”っていう形らしいけど。オマエも父上の子供、ってことだ」
「でも、そうして、そんな…?」
「こうしていれば、例え侯爵が登城しても、オマエには容易に近づけないだろう?」
本来地方の領主や貴族達が、役職以外の理由で王族に面会するには、それなりに手順を踏み、許可を得なければならない。
だからあのひとは、こちらからの許可が下りるまで、現在の僕に会うことは出来ない───そして、こちらからの許可が下りることもないだろう。
僕が、面会を望まない限りは。
「アルフォンスさえ良ければ、正式な手続きもできるって。そしたら、オマエもオレの弟になるんだ」
「だけど、そんなことしたら…アルフォンスくんの、継承権はどうなるの…?」
ほんの数ヶ月とはいえ、僕は彼よりも早く生まれている。
だから正式に王家の養子になった場合、出生順に見れば僕はアルフォンスくんを押しのけて第2王位継承権を手にすることになってしまう。
「ボクは継承権なんていらないもの。ただ兄さんが増えて、嬉しいだけだよ」
アルフォンスくんはさらりとそう言って笑う。
「アルフォンスさんは、ボクや兄さんと兄弟になるのは嫌…?」
「嫌なわけないよ!僕一人っ子だし、兄弟ってすごく憧れてたから」
従兄弟として、友達として一緒にいられるだけでも嬉しかったのに、もっと近くにいることができるなんて嘘みたいだ。
「だけど、僕が出たら…あの家は、あのひとで途絶えてしまうことになるよね……」
「…だから勿論、むりに王家の人間になれとは言わない。案外王族って大変だし」
「そうだね、コトによっては危険も伴っちゃうし」
エドワードさんはアルフォンスくんと顔を見合わせ、小さく肩をすくめた。
「オレ達はただ、オマエが幸せになれるのならそれでいいんだ。だからそれは、方法の一つとしてでも考えてもらえれば充分なんだけど」