籠を発つ鳥
切り分けられたよく冷えた桃を、4人で一緒に食べながら。
3人が僕にたどり着くまでの状況を、話してくれた。
異変に最初に気づいたのは、エドワードさんだったそうだ。
「───オマエからの返事が、来なくなったんだ」
届いてから半月とおかず、必ず返事を送っていた僕の手紙が、ある時から届かなくなった。
心配になった彼は、僕が病気で床に伏したのかと思い、あのひとに宛てて僕の体調を伺う手紙をしたためてくれたそうだ。
「僕、そんなの知らなかった……」
病であれば見舞いに、との内容に、あのひとは気遣い無用との返答を返したらしい。
その後も続けて手紙を送ってくれたそうだが、すべてすげなく返されて。
「…だろうな。何度か侯爵も、オマエの筆跡を真似た文面を返してきたけど。アルが全部偽物だって見抜いたよ」
目立つ癖のない僕の筆跡だけれど、不思議とアルフォンスくんとは全く同じといっても過言ではなかったから。
彼が一目見れば、その手紙が僕の手によるものかどうかなんてすぐに分かっただろう。
「なんでこんな、オレ達を騙すようなことをするのか、ずっと分からなくて」
「その頃からだったかな……ボクが”夢”を見始めたのは」
あのひとの返事がすげなく返され始めた頃、アルフォンスくんが夢を見るようになった。
最初は、何も判別できないほどおぼろだった輪郭が、回数を重ねる毎にリアルになり、やがてあのひとに組み敷かれている僕の姿が見え。
ショックもあって彼は体調を崩し、何度も床に伏せっていたそうだ。
期間などを聞いてみれば、それは僕が体調を崩したのとほぼ同じリズムで。
「気持ちのどこかで、繋がってたのかもしれないね。…ボクとアルフォンスさんは、いろんなところで似てるから」
そしてうわごとに何度も僕を呼び、たすけて、と泣いてくれていたという。
「…夢を見るたびに、胸が痛くて壊れそうだった。アルフォンスさんがどうしてあんなことに、って……あれ以上続いてたら、ボクきっとおかしくなってた」
「アルフォンスくん……」
「だって、ボクしかその夢を見てないんだ。…あなたが『助けて』って言ってたのに、ボクにはずっと、何も出来なくて……っ」
きゅう、と唇を噛んだアルフォンスくんの肩を、手を伸ばして抱きしめた。
「…そうやって、きみが思ってくれてたから。僕はきっと、おかしくならずにいられたんだ」
絶望こそしたものの、僕が狂気にとらわれることなく正気を残していられたのは、彼がいたみを分け持っていてくれたからだろう。
彼らのことを考えていたとき、僕は穏やかな気持ちでいられたから。
「それで───そのうち、侯爵さまからのお手紙も届かなくなって…」
いてもたってもいられなくなり、王族であるが故に容易に王宮を離れられない兄弟にかわって、彼女が僕を訪ね───全てが明るみに出た。
「アルが言ってた以上の事態で。あたしもすごく怖くて…同じだけ、胸が痛かった」
「あの時は、ごめんね。ああすることしか、できなくて」
あの時の僕は、ただ彼女を護りたい一心だった。
初めてあのひとに逆らって、初めて一度も声を上げずに、あのひとに犯された。
ひとが無理矢理体を押し開かれるところを目にすることになった彼女は、どれだけの衝撃を受けただろう。
「ううん。アルフォンスはあたしのこと、護ってくれたんだもの。……本当に、ありがとう」