籠を発つ鳥
「気分はどうだ、アルフォンス」
夕方、国王様が僕を訪ねてくれた。
「───あの…はい、おかげさまで、だいぶ…」
傍にはアルフォンスくんがいてくれたのだけれど、僕はずっと体の震えが止められずにいた。
「ん?無理に起きておらずとも良いぞ」
「……っ!」
横になるように促してくださった大きな手に、過剰なほど身を竦ませる。
「アルフォンスさん…」
そうっと肩に触れたアルフォンスくんの手には、そんな反応をしないのに。
「私を…いや、”大人”を恐れてしまうようになったか……」
「…申し訳、ありません……国王様」
この一年の間、無理矢理に体を暴かれ続けた結果、僕の中に植え付けられたトラウマ。
あのひとと同じように、大人と呼ばれる年代の人達───主に男の人を、無意識に恐ろしいと思うようになってしまった。
ひとこと言葉をかけられるのにも身構え、触れられることに怯えて。
「構わぬ。こうして、顔を合わせて話をしてくれているだけでも十分だ」
ほんの少し寂しそうに笑って、国王様は僕のいるベッドから一歩離れる。
「不足があれば、エドワードやこれに言いなさい。しばらくは、ウィンリィも含めた3人におまえの世話を任せよう。───良いな、アルフォンス?」
「勿論です、父上」
アルフォンスくんが、国王様に頷いてみせる。
「…無理をせず、おまえの気持ちの整理がつくまで、ここで休んでいなさい」
「ありがとう、ございます」
お礼だってきちんと言いたいのに、目線を合わせるのも少し怖い。
「後のことは、おいおい考えてゆけば良い。───おまえにはまだ、時間があるのだから。後悔のないようにな」
「……はい」
このときの国王様の言葉を、僕は額面通りに受け止めていたのだけれど。
後でその言葉を思い出し、この方が本当に伝えたかったことの意味を思い知る。