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籠を発つ鳥

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「エドワードさんもアルフォンスくんも、すっごく嬉しいこと言ってくれたんだ」
傍にいる、と言ってくれた。
大好きだ、と言ってくれた。
嬉しくて嬉しくて、二人にありがとうを言いたかったけど、言葉に出来なくて。
「本当に、すごく嬉しくて…それで泣いてたんだ。だから、二人はなんにも悪くないんだ」
「アルフォンス…」
笑ってる筈なのに、また涙がこぼれる。
「───ねえ、エドワードさん、僕も、言ってもいいのかな?」
「…何を?」
「…あのね、」
だめだなぁ僕、さっきから泣いてばかりだ。
「…僕もみんなが、大好きだよ、って。…傍にいたい、って、言ってもいい……?」
掠れた声で尋ねたら、エドワードさんはわらって頷いてくれた。
「───もちろんだ、アルフォンス」






手の甲で何度も涙を拭っていた僕の手を止めさせて、彼女はポケットから取り出したハンカチでやんわりと目元を押さえてくれた。
「あんまりこすったら、赤みがひどくなっちゃうわよ」
「……ごめ、…っ」
「…冷やした方が良いかもしれないね」
「じゃあ、何か濡らしてこようぜ」
「うん。…アルフォンスさん、ちょっと待ってて」
エドワードさんとアルフォンスくんが、たたっと部屋の奥に消えていく。




ひく、としゃくりあげて、僕は何度も大きく息を吐いた。
うん、なんとか涙は止まってくれそうだ。
「…ねえ、リィ」
「なぁに?」
「このあいだ、僕…返事できなかったから。いま言わせて」
一瞬きょとんとした表情を浮かべた彼女は、すぐに合点がいったようで、うん、と小さく頷いた。
「聞かせて」






「───僕、誰も好きになっちゃいけないって思ってた」
「!」
「あのひとに、何回も抱かれて。抵抗するのも諦めて。僕が我慢していればいいんだって、逃げてるだけで」
「そんな、」
「だって、僕がもっとはやくに、あのひとを諫めていれば。きみをあんな怖い目に遭わせなくて済んだかもしれない」
無論、あのひとの精神状態からみれば、何度抵抗し諫めたところで効果はなかったかもしれないけれど。
「だけどずっと、怖いからって部屋の中で怯えてるだけで。…助けて貰うまで、何も出来なかった」
もしかしたら僕は、”何も出来なかった”のではなく、”何もしなかった”だけなのかもしれない。
考えればきりがないけれど、助け出されてここに来てからの僕の中には、そんな思いがずっとあって。
「…僕の体、汚れてるから。だから、誰かを好きになったら、その人も汚しちゃうんじゃないかって、思って」
こわかったんだ。
ぽつりと呟くと、彼女がきゅうっと眉根を寄せた。
「アルフォンス……」
泣かせてしまうんだろうか、と胸が痛んだ。
「でもね、やっぱり…自分の気持ちに、嘘は付けないんだ」
だから、言わせて欲しい。
「───初めて会ったときから、今もずっと、これからも。僕はきみが好きだよ」



「ばかね、アルフォンス」
泣きそうなのを堪えた笑顔で。彼女が言う。
「あんたのどこが、汚れてるのよ?」
僕の両手をそっと取って、細い手で包んでくれる。
「こんなに綺麗な手で、こんなに綺麗な瞳で。誰かを思って泣ける優しいあんたを、汚れてるなんて言わせないわ」
右手を取り上げて、彼女は自分の頬に押し当てた。
「もしもあんたが汚れてるっていうのなら、あたしが全部綺麗にしてあげる」
ころん、と彼女の瞳から、涙が一つこぼれる。
僕とよく似た色の、少し大きくて綺麗な、澄んだ蒼。
「…ありがとう」
良かった、今度はちゃんと言えた。
「……大好きだよ、リィ」





作品名:籠を発つ鳥 作家名:新澤やひろ