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籠を発つ鳥

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終章










この邸の扉を開くのは、どれくらいぶりだろう。
ドアノブを掴む手が、微かに震えている。
「───アルフォンス」
「アルフォンスさん…」
「だいじょうぶ、です」
心配そうな声で僕を呼んだエドワードさんとアルフォンスくんに、頷いてみせる。
「だけどちょっと、緊張してるかな」
「…そっか」
意を決して、がちゃ、と扉を開いた。



窓際の椅子に腰を下ろして、そのひとはぼんやりと外を見ていた。
「───ハイデリヒ侯爵」
エドワードさんが呼ぶと、そのひとはこちらを見て、蒼い瞳を僅かに見開いた。
最後に見たときより幾分痩せた、そのからだ。
「ご子息が、話があるそうだ」



乾いた喉を潤すように、唾をこくりと飲み込む。
「───少し、痩せられましたね」
「…ああ」
「食事はちゃんと摂っているんですか?」
「……いや、あまり」
「だめですよ。ちゃんと食事は3食きちんと摂ってください。母上も、ずっと仰っていたでしょう?」
病弱だった母は、それでも僕やこの人の食事を自分で作ることを日課としており、僕も母の作る食事を楽しみにしていた。


「…私を、恨んでいるだろう?」
「どうしてですか?」
思いの外、否定の言葉はすんなりと出てきた。
「あなたは母上を愛していた。だからその代わりを、母上に似ていた僕に求めた。そして、僕を抱き続けた。それだけのことです」
僕が過ごしたあの期間なんて、言い換えればたった一言にまとめてしまえる。
「もし悔やむことがあるとするなら、あなたがリィに手を出そうとしたことだ。彼女に怖い思いをさせ、怯えて泣かせたことだけ」
どうして、と泣いた彼女の表情を思い出すと、今でも胸が痛い。
「自己犠牲の気持ちに浸るつもりはありません。僕は自分の身に起きたことを、事実として受け止めているだけです」
結果、トラウマという形で傷は残ってしまったけれど、いつかはそれも消えるはず。
一度底辺まで落ち尽くした僕だから、後は這いずってでも上を目指して登るだけ。



「エドワードさん、僕はハイデリヒ家に残ります」
「!」
僕の言葉に、そのひとは息をのんだ。
「ただ、僕はまだ成人もしていないからすぐに爵位を継ぐことは出来ないので、領地のことはオステア侯爵にお任せします。もし成人して、侯爵が僕をハイデリヒ家の当主として相応しいと判断してくださるようなら、領地の返還をお願いしてみようと思います」
「…そっか」
「せっかく手を尽くしてくださったのに、ごめんなさい」
「いいんだ、気にするなって」
ぽん、とエドワードさんが肩を叩いてくれる。




作品名:籠を発つ鳥 作家名:新澤やひろ