籠を発つ鳥
2.
☆
日付の感覚すら分からなくなっていく中で、思い出すのは三人のことばかり。
初めて会った日、外へ出ることを惑った僕に。
行こうよ、と手をさしのべて、僕を待ってくれたアルフォンスくん。
ほら行きましょう、と笑って、後ろから背中を押してくれたウィンリィ。
行こうぜ、と僕の手を取り、迷うことなく引っ張ってくれたエドワードさん。
たった十日間の交流だったけれど、誰かとあんなに楽しく過ごせたのは初めてで。
本当に嬉しかった。
だからもう一度、彼らに会いたいと願ったのだ。
そういえば、手紙を返せなくなってどのくらい経っただろう。
『───ぜったい、エドとアルと一緒に、助けに来るから…だから、諦めないで』
あの日彼女を送り出したときの、泣き腫らした瞼を思うと、今でも胸が痛い。
いつか僕に飽きる日が来れば、あのひとは僕を解放してくれるのかな。
そうしたら、もう一度三人に会いたい。
僕はだいぶぼろぼろになってしまっているから、きっともう、上手に笑うことも出来ないだろうけれど。
せめて彼らに、大好きなんだ、と伝えることが出来れば。
今の僕が持っている精一杯の気持ちを、三人にあげたかった。
日の光も差さない薄暗いそこで、食事を手に訪れるあのひとに抱かれるだけの日々。
閉じこめられて、逃げる場所などありはしないのに、足には変わらず鎖を付けられ繋がれて。
まるで猫や人形を愛でるように、あのひとは僕を抱きながら母だけを呼んだ。
それがどのくらい続いただろうか。
ある日、あのひととは違う声が座敷牢に響いた。
長らく聞くことの叶わなかった、彼らの声が。
『───アルフォンス…!』
『アルフォンスさん!』
僕を呼んでくれる声。
だから最初は、彼らに会いたい僕の願望が見せた、幻だと思ったんだ。