籠を発つ鳥
3.
☆
目を開ければ、何日かぶりの太陽が見えて。
柔らかな日の匂いのするベッドの端に、彼女が上半身を伏せて眠っていた。
『───リィ…?』
ずっとここにいてくれたんだろうか。
小さく声を掛けると、彼女が目を覚まし、みるみるうちに蒼い瞳に涙を溜めた。
のろのろと体を起こした僕を一度だけきつく抱きしめて、彼女は部屋を飛び出す。
少しして、彼女は二人の少年と一緒に戻ってきた。
『…アルフォンスっ!』
二人がぎゅうっと、僕が屋敷の地下でひかりを見た時のように抱きしめてくれる。
するする、と僕の頬を撫でて。
『良かった…目が、覚めたんだな……』
泣きそうなのを堪えてそう言ったのは、エドワードさん。
アルフォンスくんは泣き笑いの表情で、本当に良かった、と呟いた。
『ここ、は?』
『王宮だ。あの屋敷を出て、今日で4日目だ』
『そうですか…僕、そんなに眠ってたんだ』
不思議なほど、頭も体もすっきりしている。
屋敷の中で繋がれていた頃から考えれば、驚くほどの体調の良さ。
『気分はどうだ?腹が減ったり、喉が渇いたりしてないか?』
『えっと……そう、ですね。何か、飲みたいような…』
『冷たい方がいいか?……そうだ、アル。今朝届いたヤツが』
『そうだね。あれなら甘いし、柔らかいから』
『やわらかい、って…?』
首を傾げる僕に、エドワードさんがにこりと笑う。
『待ってろ、アルフォンス。女官長が桃を切って冷やしてくれてるんだ。貰ってくる』
そう言って、彼は部屋を出ていく。
『桃なんて、まだ早いんじゃないかな?』
『そんなことないわよ。今が一番美味しい時期だもの』
『今朝城下から、その花と一緒に贈られてきたんだよ。アルフォンスさんへのお見舞いにって』
『───え…?』
言われて僕は、指された方に目をやった。
そこには花瓶に生けられた、鮮やかな向日葵の花。
長い幽閉生活のおかげで、日付の感覚がなくなっていた僕は、周りを見渡し漸く気づいた。
窓の外には陽を透かし青々と茂った、木々の葉たち。
どこかからは蝉の鳴く声が聞こえる。
空は本当にいい天気で、白く湧き起こる入道雲が見えて───。
いつの間にか。
初めてあのひとに抱かれた冬はとうに過ぎ。
ただベッドの上で泣くことしかできなかった春も、彼女が僕を訪ねてくれた梅雨も、すでに終わりを告げ。
季節は、夏。
あの、僕らが初めて出会って別れた日から、もう1年近くが経っていたのだ。