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ふざけんなぁ!! 1

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照れくさそうに顔を赤らめて説明する静雄の横で、こっちも発熱し、血色が良すぎる顔になった帝人が、幸せそうに己の服をきゅっと握り締めた。

「すっごく上等な生地なんですもの。それに静雄さんの匂いがしてとても落ち着くんです。これは世界に一着しかない、私の宝物だから。ずっと大切に着続けたいんです」


ぐほっと今度こそ、静雄は盛大にむせこんで轟沈した。
慌てて鼻をハンカチで拭っていたから、マジで血が出たかもしれない。
だが、仕方がないと許そう。
トムですら、今の帝人にどう突っ込んでいいか判らず、瞬間頭が真っ白になって気を失いかけたのだから。


(これは……、もしかすると………、本当に……、静雄に春が来たのか?)


相手は15歳。
童顔で小柄で、下手したら小学生に間違われて補導だってありえるぐらいの子供なのに、静雄を怖がるどころか、こんなにも好いてくれているなんて。
だが、今手を出せば速攻で犯罪者だ。
せめてこの子が18歳だったら、きっと心置きなく祝福してやれただろう。
それが滅茶苦茶に惜しい。


「………あああああ、クソ。俺、今まで駄目にした分、とっておきゃ良かった。……」
「えへへ、今後捨てる前に声かけてくれるだけでいいんです♪」
「あたりめぇだろ。けどよぉ、俺のお古より、やっぱ新しい服を買って……」
「それじゃ全然意味無いです。はい、この袋もワンピース作った余りと、静雄さんの古いシャツで作ったんですよ♪」


嬉しげに袋を手繰り寄せると、彼女は本日の戦利品を見せびらかし始めた。


「ほら見てください静雄さん♪ 春大根♪ ジャガイモに玉葱に人参に青梗菜にレンコンにブロッコリーにアスパラガス、全部一袋50円♪ 傷物虫食いって言っても、本当にささやかだし。大体こんな破格なお値段でなんて、東京じゃまずありえませんでしょ♪ 私、ういなー(winner:勝者)♪ タイムバーゲンばんざい♪ 勝ち抜きましたぁぁ♪」

「……お前頭に、こぶできてるじゃねーか……」


彼女は今、あばら骨にヒビが入ってるらしい。
そんな体の癖に、主婦達が戦う熾烈極まりない食材争奪戦に参戦なんて無謀だ。
小柄だし、そのこぶは客から肘鉄をたっぷり食らって作ったのだろう。
急に高い熱が出たのもきっと、危険なおしくらまんじゅうに潰されて、胸の骨を痛めたからに違いない。


静雄も、トムと同じ結論に辿り着いたらしい。


途端、沸点の低い彼の導火線に火がついてしまった。
ぶるぶると震えが走り、額に青筋が浮かび、「殺ス殺ス殺ス殺ス……」と呟きだした彼の剣幕を見て、スーパーに殴りこみをかけ、崩壊……という未来予想図が楽々思い浮かび、トムの背筋に寒いものが走る。

だが何時もの爆発が始まる直前、帝人はおもむろに静雄の手を取り、嬉しそうにすりっと彼の手のひらで、己の頬を撫でた。


「……ああ、冷たくて……、気持ちいいです……」


ぼわんと瞬時に静雄の顔が真っ赤になる。
が、目を閉じていた少女は、そんな事も一切気がつかず、そのまま暫くすりすりと彼の手に、頬を押し付けて冷たさを求めていた。
そして、そのうち薬が利いてきたのだろう。
くうくうと寝息を立てて夢の世界へと行ってしまった。
しかもしっかりと静雄の胸に、ころりと持たれかけてからだ。


すっげぇ天然。
トムは頭が痛くなりだし、そっと自分の額に手のひらを当てた。

静雄の方もかちんこちんに硬直し、耳まで真っ赤になって固まっている。
勿論スーパー襲撃Let’s Go!!なんて、彼の単純な頭から綺麗にデリートしている筈。


「えっと、まぁ早めに帝人ちゃんの親御さんに電話して、迎えに来てもらうべ」
「………駄目ッス………」


途端、彼はカクカクとした不思議な動きで、ぎゅっと帝人をお姫様抱きにし、上半身全部で覆いかぶさって、トムの前から小柄な体を隠してしまった。


「……こいつの実家、埼玉のど田舎なんですが、滅茶苦茶厳しい家なんです。俺と二人で暮らしてるなんて知られたら、速攻で連れ戻されちまいます……」
「……ちょっとマテや……」


なら、本当に静雄はこの少女と同棲をしていたのか。
しかも、毎日顔を合わせていたこの自分に、一切の報告どころかそぶりも見せやがらなかったし。
晩生(おくて)で不器用で初心だった筈の後輩が一転、ポーカーフェイスに長けた嘘吐きになっていたなんて。
静雄の皮を被ったエイリアンに、すり変わってしまったと思えるぐらい驚愕だ。
こんな彼なんて、信じられない。

「………俺だって必死だったんです。こんな純粋に女の子に愛されたのって、初めてだから……、誰の目にも触れさせたくねぇし、ホントはトムさんにだって紹介したくなかった。怖いんです、俺、もう帝人無しじゃ生きていけねぇ……」
そのままぎゅうぎゅうに抱きしめると、寝ていた帝人が痛さに飛び起きたらしい。
流石に静雄が不憫になった。
彼は好いた女を、力いっぱい抱きしめてやれない体質なのだから。

けれど、帝人ちゃんは本当に健気な子で。
痛さに涙ぐんでいたけど、にこっと笑顔を必死で作って。

「私が代わりにしますから、静雄さんはそのままでいてくださいね♪」

そう言って、静雄の背中に小さな手を回し、きゅっと力を入れた。


「……し、静雄……、念の為に言っとくが、15歳の女の子に手を出したら……、み、未成年淫行罪で逮捕だからな………」
「……お、俺は……帝人が望むなら……、例え犯罪者になったって………」
「……せ、世間体を気にしてやれよ。恋人が自分を愛して牢屋行きになったなんていったら……」
「………死にたくなるかも………」

ぽつりと呟いた彼女の言葉には真実の気持ちが溢れていて、これには、静雄だけでなく自分の胸も思いっきり撃たれて轟沈した。


「み、帝人ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 好きだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



彼女を抱き潰してしまわないようソファにぽすりと避難させると、静雄はダッシュで事務所の外へと駆け出していった。
そして直ぐに電信柱が傾き、物凄い破壊音が聞こえ、事務所は真っ暗な停電となった。
そのうち駐車禁止地域に停めてあったらしき車が、盛大に次々と空を舞う。


三階の窓から二人、並んで静雄の凶行を溜息混じりで見下ろす。
どうやら彼は、照れても街を破壊するらしい。
あんな静雄を見て、彼女が怖がるのではないかと思った自分は、聞こえてきた言葉に文字通り固まった。


「……あー、失敗したぁ……、ちっ………」



おいおいおいおいおいおい。
何だ今の舌打ちは?

空耳だと信じたいが、のぼせていた頭が急に冷え、瞬時に会ってから今までのやりとりが、走馬灯のように脳裏を横切っていく。
段々、恐ろしい推論が、自分の頭の中に形作られた。


「あー、帝人ちゃん。君と静雄との馴れ初めを聞いていい?」
「……十日ぐらい前ですか。3月28日にこの池袋に引越してきたんですけど、私が住むはずだったアパート、静雄さんが破壊しちゃって……」

ぽつぽつと話始めた彼女と静雄の十日間を、笑わずに耐えた自分を褒めてやりたい。


「じゃあ今日、静雄に声をかけられて、Vサインして笑顔になったのは?」
作品名:ふざけんなぁ!! 1 作家名:みかる