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ふざけんなぁ!! 1

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「これで重い荷物を、静雄さんに持ってもらえるってほっとして」

うんうん。判る。
彼は力持ちだ。頼れば喜んで荷運びしてくれただろう。


「でも、帝人ちゃんは静雄の為に、食事も作ってるんだろ?」
「はい。外食より断然自炊の方が安いんです。それに買い物は静雄さんに任せられません。あの人は値段や鮮度に関係なく変な食材買ってきちゃうし。それに余分なお菓子とかジュースが多すぎて、予算をオーバーします。食費は折半なのに」
「……まぁ、男だしな……」

自分だって『大根は葉つきじゃなきゃ駄目でしょ』…とか言われたら、マジでウザいと思う。
それに定価150円のものが50円で買えたからって、飛び上がって喜ぶなんて芸当もできないだろう。


「じゃあ、その静雄のお古で作った服、あんな喜び方されたら誤解するだろ? 素直に新しいの買って貰えば良かったのに」
「駄目です。男の方が女性に物を贈るのは、下心があるからだって幼馴染が言ってました。だから、恋人でもなんでもない私が、あの人におねだりして物を買ってもらうなんて、絶対やっちゃいけないんです」

きっぱり言う彼女はとても潔良いが、元々彼女の棲家と私物を台無しにしてしまったのは静雄だ。
それを恨みも弁済も請求せずにいられる彼女は、やっぱり人がいいというか、田舎育ちの純朴純粋というか。
都会にない彼女の特有の清らかさが、汚れた街には眩しすぎる。


「あー、じゃあ今度安い古着屋を紹介するよ」
「いいえ、余分なお金は一切使いたくないんです。私、この怪我が治ったらバイトに行って、とっとと自立するって決めてます。東京は敷金礼金高すぎるのに、手持ちのお金は後12万しかないし。兎に角贅沢は言わないから、パソコンとネットを引ける環境で、家賃が三万以内…の所を、捜してますので、いい物件があったら教えてください♪」

嫌、無駄だろう。
あの静雄が、今更この子を手放す訳がない。

タイミング良く天然ぽけぽけを演じ、静雄が暴走しかける度、ことごとく歯止めをかけたのはきっと、非力な彼女が安全に静雄の元で生活する時、これ以上怪我を負わないよう保身に走っての行動だったのだろう。
だが、その作戦にどっぷり嵌った静雄は、彼女の虜である。

もし帝人が逃げ出せばきっと……、池袋中に血の雨が降るのは確実だ。


トムはこくりと息を呑み、意を決して最後の質問を口に乗せた。


「あのさぁ、『………死にたくなるかも………』って、やっぱ本心?」
帝人はあっさりと、こくこく頷いた。

「当たり前です。私まだ、恋だってしたことないのに、いきなり犯されたら首括りたくなるでしょ?」
「……ご尤(もっと)も………。でもさ、あれ……どうするの? 静雄は帝人ちゃんにマジで惚れていると思うべ?」
「今は怪我させた責任感じて過保護になってるだけですってば。大体私、八歳も年下のお子様ですし。きっとお引越しが完了すれば、直ぐに記憶からフェードアウトですって。その時はトムさんもフォローしてくださいね♪」



トムは返事を誤魔化す為、静かに煙草を咥え、ゆうるり紫煙を吐き出した。


★☆★☆★


それから三十分後。


帰りがけに、彼女に夕食を共にしないかと誘われた。
物凄く興味あったが、帝人の後ろで彼女にばれないよう威嚇する静雄に遠慮して、適当な用件を捏造してお断りすることにした。

「残念です。トムさんには色々と、私の知らない静雄さんのことをお聞きしたかったのに」

しゅんとうな垂れる彼女と、瞬時にぼんっと顔を赤らめた静雄には悪いが、もうカラクリは読めている。
彼女の言葉を裏読みすれば、『静雄の求愛を出し抜く情報が欲しい』という事なのだろう。

「じゃあせめて、携帯番号を交換しませんか?」
にこにこと自然な流れで食い下がる帝人の隣……、池袋の魔人の形相がみるみる険しくなる。
「ああ、何でだよ?」
「だって、静雄さんの件で連絡とか……。ほら、風邪ひいちゃったりとか、怪我で体調が悪い時、それに帰りが遅い時とか心配ですし。それに静雄さんの中学からの先輩なんですよね。お話、聞きたいじゃないですか」
「問題ねーよ。いいからトムさんに用事がある時は俺を通せ。トムさんも帝人に何か伝言あれば、俺に言ってください」
「はいはい。そういう事だから、悪いね帝人ちゃん」


嫉妬に狂っている静雄に、あえて怒らせるような危険は犯せない。
そう言ってまたね♪と手を振ると、彼女は暫く自分の顔と静雄の顔を交互に見た後、満面の笑みでほんわりとこう言いやがった。


「やっぱり大人なお二人って、仲良しでお似合いですね。子供な私よりも、断然静雄さんに相応しい。お幸せに♪」


絶句する。
まさか天然を装って、こんな手で逆襲に来るとは。
帝人ちゃん、侮りがたし。
だが、静雄は瞬時にかぁぁぁぁっと顔を赤らめやがった。

ちょっと待て。
なんでそうなる?
マジでぞぞぞと、背筋に寒いものが駆け上がる。
だが、俺の勘違いは直ぐに吹っ飛んだ。
静雄が嬉々として、帝人に飛び掛っていったからだ。


「帝人ぉぉぉぉぉぉぉ♪ お前はなんて健気なんだ。だが、心配いらねぇからな。俺はトムさんや他の女に目移りなんかしねぇ。世間が俺をロリコンと呼ぼうが、お前が子供だからって関係ねぇ。俺はお前が大好きだぁぁぁぁ♪♪」



俺も涙が出るほど嬉しかった。
静雄とホモカップル認定なんて、想像するのも嫌だ。


★☆★☆★


かくして、静雄の『婚約者』とのファーストインパクトはこんな感じで終わったのだ。
あれから二週間が経った現在、彼女のあばら骨のヒビは完治どころか粉々に折れ、現在ギプスを活用していると、落ち込んだ静雄から聞いた。

どんな経緯で怪我が悪化したのか、手に取るように思い浮かぶ。
だが、静雄と同居しててその程度で済んでいるのなら、彼女は随分と小動物の知恵を絞り、頑張って生き延びているようだ。

頑張れ帝人ちゃん。
彼女には悪いが、一人の犠牲で池袋が静かになるのなら、俺は諸手をあげて二人の仲を祝福する。


こんな汚い大人を、どうか許してくれ。



作品名:ふざけんなぁ!! 1 作家名:みかる