【ヘタリア】兄さんの子守唄 前篇
「なら、その思いと時間を大切にしろよ。今の思い出がなあ・・・大きくなった時に・・・・・思い返すと、なんか幸せだったなあって思える時がくるんだぜ。
その時・・・子供ん時の楽しかった思い出っつうのは、大人になっても宝物になって、お前の心に残るんぜ。」
「ふうん・・・・・・。」
ルートヴィッヒは必死に目を開いていようとしているが、もう、眠りそうだ。
「さあ、もうお休め・・・ルッツ・・・。」
「う・・・ん・・・・にい・・さん・・・」
「可愛いルッツ・・・・・。愛してるぜ・・・・。」
もう一度キスをする前にルートヴィッヒは眠ってしまった。
眠りについた弟の体に、布団をかけ直してやる。
小さな暖かい体・・・・・。幼い弟・・・・・。
(俺が願ってやまなかった「ドイツ」。
こいつを守らないとな・・・・・。
俺が生まれた意味はきっとこいつのためにある・・・・。
なぁ・・・・親父・・・・フリッツ親父・・・・・。
親父といた時、俺はもう、子供じゃなかったけどよ・・・。
俺の「親父」はお前だって、ほんとにあの時、思ってたんだぜ・・・・。
いっつも褒めてくれて、俺のこと、いつも考えてくれて・・。俺はお前が大好きだったぜ。いまでもずっと親父を愛してる・・・・・・。
親父にも見せたかったよ・・・この「ドイツ」を・・・・。
なぁ・・・親父・・・・。親父がいなくなってからも、俺はずっと頑張ってるんだぜ・・・・・。
親父がいねえと、ずげえ、寂しいけどな・・・・・・。
ブランもいるし、こいつも少しずつだけど大きくなってる・・・・・。
見守ってくれよな・・・・・。
俺と「ドイツ」をよお・・・・・・。)
ルートヴィッヒが安らかな寝息をたてている。
その寝顔をのぞきこんで、そっとキスをする。
すやすやと眠るルートヴィッヒ。
しばらく弟の寝顔を見ていたギルベルトは、やがてベッドから起き上がると部屋を出て行った。
まっすぐに自分の書斎へと向かう。
ドアを開けるとシュタインが待っていた。
「さあ、聞かせてもらおうか。例の3人の名前をな!」
ギルベルトの顔に凶悪な怒りの色が浮かんでいた。
翌朝、ルートヴィッヒが目覚めると、隣にはちゃんとギルベルトが眠っていた。
ルートヴィッヒは、ほっと胸をなでおろす。
外はまだ陽が昇る前で、かすかに鳥たちの声だけが聞こえる。
「んん〜!」
ギルベルトが気配を感じたのか、目を覚ました。
瞼が開いて、緋色の瞳が現れる。
兄の目はとても美しいとルートヴィッヒは思う。
ギルベルトはルートヴィッヒの碧い瞳の色こそ、ゲルマンの象徴とたたえるが、誰も持っていない色を持つ兄こそが、特別の人だと思う。
陽の光をあびたとき見るその瞳は、きらめく紅い色は、まるで宝石のようだ。
「おはよう・・・・ルッツ・・・。よく眠れたか?」
まだ眠そうにギルベルトが言う。
「うん・・・兄さんこそ眠れた?俺、先に寝ちゃったから・・・。」
「お前がそばにいるとなあ・・・俺は幸せな気分で眠れるからな・・・。夢も見ないでぐっすりと眠ったぜ・・・・。」
そう言いながら、ギルベルトはルートヴィッヒを抱き寄せる。
「うう、でもまだ眠いな・・・・・。まだ早いだろ・・・・お前ももいっかい寝ろ・・。」
「うん・・・・兄さん・・・・。」
ルートヴィッヒも兄にくっつくと、もう一度眼を閉じる。
兄の体温が暖かい。
大きな腕の中で、ルートヴィッヒは安心してまた眠ってしまった。
(心配するな・・・・ルッツ・・・・。俺はちゃんとお前のそばにいる。
お前を守るからな・・・・・・。安心して大きくなれ・・・・・。)
陽が昇るまで時間がある。
ギルベルトは、ずっとルートヴィッヒの寝顔を見ていた。
朝、兄の起きる気配で目を覚ます。
それがどれほど幸せなことなのかとつくづく思う。
珍しくギルベルトは、戦地に赴くのを延期していた。
その間に、この駐屯地の内部の人事が変わったらしいが、ルートヴィッヒにはよくわからなかった。
あわただしく動き回る兵士たちを窓から見下ろしながら、次々に入れ替わっていく兵士たちを見つめる。
兄に何かあったのかと聞いても、部隊の移動としか言ってくれない。
いつもと違うあわただしさと、普段通りの兄の態度に、違和感を感じたが、やがて忘れてしまった。
それよりも、兄が自分のそばにいてくれるほうが重要だった。
朝、閲兵の前にギルベルトは剣のけいこをつけてくれる。
ギルベルトの剣術は恐ろしいほど強い。
ルートヴィッヒはもちろん、軍隊の誰もが、ギルベルトに太刀打ちできない。
唯一、シュタインだけがその相手をしていた。
銃に関してもギルベルトの要求はすさまじかった。
当時としては革新的なドライゼ銃を国王に詰め寄って軍に配備させ、秘かに兵たちにその取扱いを訓練させていた。
自らも、ドライゼ銃を操り、誰よりも、正確に的にあてていく。
ルートヴィッヒも撃ってみたが、ボルトアクションの銃とは先ごめ式の銃とちがって、其の装填時間が格段に短いのだ。
戦場で、この銃が使われたら・・・・?
歩兵など、もう意味がなくなる。
そうなった時・・プロイセン軍は無敵となる。
兄の先進性には軍の首脳部も驚くばかりだった。
軍神・バイルシュミット卿と呼ばれるゆえんだ。
兵たちを訓練しながら、その合間にルートヴィッヒのけいこをつける日が続いた。
しかし、ある日、突然、それは起こった。
「ベルリンで暴動だと?!いったいどういうことだ!!」
ギルベルトの怒声が響く。
「それが・・・・フランス国王がイギリスに亡命してから・・・我が国でも不穏分子が集結しているとのことで・・・。」
「国王のところへ行く!軍に市民を殺させるな!絶対に軍は動いちゃならねえ!!」
「危険すぎます!!バイルシュミット卿!!今外にでられては!!市内は、武器を持った市民軍であふれています!!」
「いいから馬をだせ!今、軍が市民に発砲してみろ!!あっという間に暴動がひろがるぞ!抑えないと!」
「兄さん!!」
「いいか、ルッツ!!絶対にここから出るな!部屋には鍵をかけて、シュタイン以外、誰も入れるな!いいな!俺はすぐに戻る!いいか、絶対に出るなよ!!」
「兄さん!!」
ルートヴィッヒの返事も聞かずに、ギルベルトは馬に飛び乗ると、市民軍のあふれるベルリンの街へと出て行ってしまった。
シュタインが素早くルートヴィッヒに駆け寄ると、屋敷内の部屋へと連れていく。
「いいですか?ルートヴィッヒ様。兄上のお邪魔になってはいけません。部屋の外には信頼出来る兵たちを監視に置きます。私も情報を集めに行きますが、ルートヴィッヒ様。絶対にお部屋からでてはいけませんよ。」
「うん!シュタイン。何が起こってるのかわかったらすぐに教えて!あと・・。」
「なんでございましょう?」
「シュタインも気をつけて!!怪我とかしないでね!!」
執事はにっこりと笑う。こんな時に、召使の身など案じるこの子はなんという優しい心の持ち主なのか・・・。
「ありがとうございます。では、ルートヴィッヒ様。誰が来てもドアを開けないように。」
作品名:【ヘタリア】兄さんの子守唄 前篇 作家名:まこ