【ヘタリア】兄さんの子守唄 前篇
まだ話せないものの、ルートヴィッヒには、彼が「兄」だとわかっているのだろうか?
マリーには、ルートヴィッヒは普通の人間の赤ん坊にしか見えない。
現に、ふつうの赤子と同じように育っている。
ミルクも飲むし、排泄もする。
あやせば笑うし、機嫌が悪いとむずがる。
まだ子供に恵まれていないマリーにとって、「国家殿」が自分に預けてくれたこの乳児は、もうすでにかけがえのない子となっている。
巷では、この伯爵家に預けられた乳児は「国家殿の隠し子」と噂されているらしい。
どういう経由でマリーが預かっているのかを、宮廷内のおしゃべり雀どもは知りたがっている。
それらをするりとかわしているが、先日出仕した折、王妃に文句を言われた。
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「プロイセンとあなたで何を隠しているの?預かっているというお子は、「ドイツ」なのでしょう?それならば、わたくしも一度見たいわ。そのお子を。」
「はあ・・・しかし、国家様が屋敷からは絶対に出すな、とおっしゃいまして・・・。
わたくしが宮中に参ります折には、ブランデンブルク様に預けるように、との厳命でございまして・・・・・。」
今日も、わざわざベルリンに出向いて来てくれたブランデンブルク殿に、ルートヴィッヒを預けてきたのだ。
プロイセン殿は、マリーと「彼」しか信用していない、ということか。
ブランデンブルクは普段はホ―エンツォレルン城に引きこもって暮らしており、滅多にはベルリンには出てこない。
それが、ルートヴィッヒの面倒をみるためだけに、マリーの屋敷に来るのだ。
しかも、ブランデンブルクは、壮絶なまでの美男子であり、寡黙ではあるが、宮中の女官たちの間では、絶大な人気がある。ルートヴィッヒの世話をしに来てくれるのは、出仕している間、ありがたいのだが、そのせいで、どこでもかしこでもブランデンブルクについての質問ぜめだ。
「まあ!ブランデンブルク!!彼ももう「ドイツ」に会っているのね!!ずるいわ!わたくしだって、ルートちゃんにお会いしてみたいのに!!」
「ルートちゃん・・・・お名前までご存じでいらっしゃいますのね・・・。」
「あら、知っているわよ!わたくしの耳にだって入ってきているのよ!ねえ、マリー・・・。」
「はい。王妃様。」
「あのね・・・本当に、ルートちゃんは、「ドイツ」なの?実はみんなが言うように、ギルベルトの隠し子ではないの?」
「王妃様!なんということを!」
「だって、興味があるじゃない!あのお堅い「プロイセン」殿が、小さなお子に、もう夢中になっているってうわさなのよ?わたくしには「プロイセン王妃」として、知る権利があると思うわ!マリー!」
「そのような事で、王妃様の権利をお使いになるのはどうかと存じますわ。」
「あら!マリー!あなたはご存じじゃないの?!真相はどうなのか!」
「国家様は、ルートヴィッヒ様を「弟」と呼んでおいでですわ。」
「あら・・・じゃあ・・・・・ひょっとして・・・ねえ・・・もしかして・・・・!」
「なんでございますか?」
「ブランデンブルクのお子だったりはしない?」
「王妃様!!それはあり得ませんわ!!天地がひっくりかえってもございません!!」
「あら、どうして?!ブランデンブルクもそのお子をとても大事にしているのでしょう?
彼のお子であってもおかしくないわ!」
「王妃様・・・・。宮中のおしゃべり雀と似ていらっしゃいましてよ・・・・。
王妃様たるもの、そのような言動はおつつしみくださいませ!」
「うふふ。おこごとは、なしよ!マリー。わたくし、あなた方が本当の事を教えてくださらないのなら、自分でルートちゃんにお会いしに行くわ!!」
「だ、だめでございます!!なんということを!王妃様!第一、そのようなこと、国王陛下がお許しになりません!!」
「陛下は大丈夫であらせられるわ!そのお子に、興味もまったくないとおっしゃっていらしたもの!『プロイセンのめかけの子になぞ、何故私が会うのかね?』と、こうですもの!」
「王妃様・・・・。国家殿にはおめかけどころか、お住まいのお屋敷に女中のひとりもおりませんのに・・・・。」
「あら・・・・ねえ・・・じゃあ・・ギルベルトは皆が言うように・・・・女性に興味がないの?!」
「王妃様!!もう、あなた様はなんということを!!」
「教えてくださってもいいでしょう?ギルベルトは戦争の時はわたくしをよく励ましてくださったけど、今はもう、宮廷にはよりつかないし、陛下とは喧嘩ばかりなさっているし・・・。
たまにはお会いして、お話したいのよ。」
「それで、お会いして、お聞きするのですか?『国家殿、あなたは女性が嫌いなのか?』と!」
「うふふ・・・わたくし、本当は知っているのよ。ギルベルトがどうして女性を寄せ付けないのか。」
「はあ・・・。それならなぜ・・・。」
「だって片思いなさっているのよ!ギルベルトは!相手の方が、ルートちゃんがギルベルトの愛人の子だなんてうわさを聞いたら、ますます嫌われてしまうでしょう?わたくしが誤解を解いてさしあげるの。」
「王妃様・・・それは余計なお世話だと存じあげますが・・・。」
「とにかく、わたくし、お会いしにいきますの!陛下には内緒でまいりますからね!あなたもお供するのよ!マリー!」
「王妃様・・・・・・・。」
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なんとか王妃を説得して、マリーの屋敷におしのびで来ることは阻止したものの、行動力のある王妃のことだ。
そのうちいきなりここにきて、子供部屋では、なんと王妃様がルートヴィッヒ様を抱きあげていました、なんてことになりかねない。
「おい、マリー。マリー!」
「は、はい!なんでございましょう?国家様。」
「ルッツに俺がミルクやってもいいかな?こいつ、まだミルクだけなんだろう?いつになったらものが食えるようになるんだ?!」
ルートヴィッヒを頭の上にかかげながらギルベルトが聞く。
ご機嫌のルートヴィッヒはずっと笑っている。
「ええと・・・・確か8カ月くらいからだと聞いておりますが・・・。もう一度、母に聞いてまいります。」
「いや・・・・。こいつ、「人」じゃないから・・・・。ふつうの基準じゃないんだろうけどよ・・・。早く大きくならねえかなあって思ってよ。」
「しばらくはミルクだと思いますわ。もうすぐ、歯が生えてまいりましたら、離乳食を始める予定ではおりますが・・・・。」
ギルベルトはルートヴィッヒに頬ずりをしている。
もう可愛くてならないのだろう。
こんな国家殿を夫のカールが見たらなんと言うだろう?
カールにとって、国家殿は神にもひとしい存在なのだ。
「んんー?ルッツぅ。もっと高い高いかあ?!お前は高いところが好きだなあ。
早く大きくなれよぉ!俺様の背なんか越えて、大きく強い男になれよぉ!」
きゃっきゃと笑うルートヴィッヒ。
作品名:【ヘタリア】兄さんの子守唄 前篇 作家名:まこ