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【ヘタリア】兄さんの子守唄 前篇

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Kennt auch dich und hat dich lieb  あなたたちを愛しておられます


******************************

数年後、プロイセン王国はナポレオンの支配から脱し、国土も回復した。
軍の改革は進み、国力はようやくもとに戻った。
ギルベルトの傷もようやく痕を残して癒えた。





その十数年後、マリーは夫の死に遇する。

その時、ギルベルトはルートヴィッヒを伴い、マリーの元に弔問に訪れた。

幼子から小年へとかわりつつあるルートヴィッヒを見て、マリーは微笑んだ。

育てた子の姿に。

生涯、子供を持つことのなかった彼女だったが、その心には、夫の国家への功績、そして、将来の「国家」殿をこの手で育てたという誇りが満ちていた。

ギルベルトはクラウゼヴィッツの功績をたたえ、マリーにその著書をまとめるように進言した。

それは、マリーが亡くなるまで続けられた。

クラウゼヴィッツの著書と思想は、後世にまで多大な影響を与えている。


**********************************


「ねえ・・兄さん・・・・。」

「うん?なんだ?ルッツ。」

「この人が小さかった俺を育ててくれたんでしょう?」


ルートヴィッヒがマリー・クラウゼヴィッツの墓に薔薇を手向ける。

「ああ・・・・・。あの頃、俺が信頼できるのは、カールとマリーくらいだったんだ・・・。」


「亡くなる前・・・・最後にあった時・・・・・俺に・・・・・歌ってくれたんだ・・・・。俺は彼女の事、ほとんど覚えてなかったのに・・・。笑ってた・・・。」

「歌か・・・・。俺もマリーに教わったな・・・。それまで歌なんてほとんど知らなかったけどよ。」


「兄さんが歌ってくれた歌も、マリーさんが教えてくれたの?」

「ああ。」

「人の一生はあっという間なんだね・・・・兄さん・・・・。」

「ああ・・・・・。でもな・・・・。」

「でも?」

「人だから・・残せるもんがあるんだぜ。」

「人・・だから?」

「ああ。俺たち「国」には残せねえ。俺たちじゃ生み出せねえもんがよ。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「おい。ルートヴィッヒ。歌うぞ。」

「え?」

「歌うんだよ。マリーが教えてくれた歌をな。」

「うん・・・・あの子守唄だね・・・・。」


二人の兄弟は歌い始めた。

Weist du wieviel Sterne stehen   星がいくつあるか知ってる?
an dem blauen Himmelszelt?    青い空の上に
Weist du wieviel Wolken gehen   どうやって雲が流れて行くか知ってる?
weithin uber alle Welt?      広い空の上で


墓に手向けた薔薇が風に吹かれて揺れる。

Gott im Himmel hat an allen     神はあなたの全てを喜び
seine Lust, sein Wohlgefallen,     あなたは神の宝
Kennt auch dich und hat dich lieb.   神はあなたたちすべてをご存じで
Kennt auch dich und hat dich lieb.  あなたたちを愛しておられます




「俺が一番最初に・・・覚えた歌だな・・・。」

「そうだね・・・・・兄さん・・・・。」



今、ルートヴィッヒは、軍の中で兄と暮らしている。

王宮へはたまに兄と一緒に行くものの、「ドイツ」という存在は、いまだ認識はされずに、兄プロイセンの元で庇護されている「新しいなじみのない国家」という立場だった。
王国、公国が乱立するドイツ諸国では、新たな「国」など珍しくはなかった。

ルートヴィッヒ自身も、ギルベルトもその事はたいして気にしてはいない。

プロイセン王国の勢いは止まらず、イギリスに遅れながらも、新しい産業が生まれ、都市は活気付き、新たな繁栄の中にあった。





***********************


大きくなれ、強く、大きく。
お前は俺の夢の具現。

聡くあれ、聡く、賢く。
お前は俺の愛しい弟。

ゲルマンの見果てぬ夢の、
お前こそが、真の姿。


ルッツ、ルッツ。
俺の「ドイツ」。

お前が生まれてきてくれて、本当に良かった・・・・・・。




どこかで、兄の声が聞こえた気がした。

「う・・・・・ん・・・。」

朝の光が差し込んでくる中、ルートヴィッヒは目を覚ました。
寝ぼけた眼で、あたりを見回す。

「にい・・・さん?」

忙しい兄はもう出かけたのだろうか?
もう部屋には誰もいない。

(今日も、兄さんより、早く起きれなかった・・・・。)

ルートヴィッヒはがっかりして、ため息をついた。

高い足付きの寝台から滑り降りると、ルートヴィッヒは半分カーテンが開けられた窓へと近づく。

兄はもう、戦地へと赴いてしまっただろうか?
それとも、まだここにいて、行ってらっしゃいの挨拶が出来るだろうか?

窓に面した中庭では、もう閲兵が行われているだろうか?
朝の挨拶を逃した今、せめて兵士たちを指導する兄の姿を見たい。

ルートヴィッヒが窓にしがみついて外をのぞいていると、執事役のシュタインが声をかけてきた。

「おはようございます。ルートヴィッヒ様。朝食ができておりますよ。」
「おはよう。シュタイン。兄さんはもう行ってしまったの?」
「はい。今日は特に早くにお出かけになりました。兄上さまより、お手紙を預かっておりますよ。ごらんになりますでしょう?」
「うん!!早く見せて!見せて!!」

とたんにルートヴィッヒの顔が輝く。

戦地に赴き、顔を合わすことが少なくなっている兄は、寂しがる弟のために、手紙を置いていってくれるようになっていた。
いまでは、それは、兄弟の大切な日常の心の交換となっている。

兄からの手紙を開ける。

『起きたか? 俺の可愛いルッツ! 今日もよく食って、よく遊んで、よく勉強しろよ!
剣術のけいこは、今度、俺様が見てやるからな。
どれだけ上達したか、楽しみにしてるぜ!
来週には帰るからな。元気にしてろ。困ったら、すぐお兄様に連絡しろよ。
いつでも飛んで帰るからな。
          愛しいルッツへ  華麗なお兄様より    』


相変わらずの兄の手紙にルートヴィッヒは笑ってしまう。
どれも似たような文面なのだが、兄の優しい愛情が伝わってきて、心が温かくなる。

戦地に行きっぱなしの兄は、ちかごろはめったにこの屋敷には帰ってこれない。
屋敷といってもベルリンのプロイセン軍の駐屯地の中にある建物だ。
なぜか兄は、ルートヴィッヒを上司である国王のもとへは、決してやらなかった。


ギルベルトは、前線から前線へと、移動して指揮をとっている。
その間、ルートヴィッヒは、この屋敷の中で厳重に守られている。
シュタインは、兄の忠実な執事で、兄が留守の間、ルートヴィッヒの日常を取り仕切っている。