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【ヘタリア】兄さんの子守唄 前篇

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ギルベルトが戦場から帰ってくるたびに繰り返されるキスの応酬。

なんと可愛い弟なのだろう。
全身で慕ってきてくれるこいつのためなら、なんでもしてやりたい。

こんな気持ちがわきあがってくるのがギルベルトは不思議だった。

これまではずっと一人でやってきた。
一人でいることが当たり前だった。
「国」として生きることは孤独だ。
その孤独に勝てるものだけが、国として大きくなれる。
自ら得ようとしなければ、何も得られない弱肉強食の世界なのだ。


(「ドイツ」はやっと俺の元に生まれた。
 「ドイツ騎士団」の守るべき「国」=ドイツ。
ずっと存在を願い続けてきた「国」。
 俺=「プロイセン」の忠誠と剣をささげる「国」。

親父・・・・フリッツ親父よ・・・・。
お前の夢と俺の望み・・ドイツ「統一国家」の存在・・・。もうすぐ、かないそうだぜ!
俺もよくここまでやってきたもんだ。
もうすぐ、こいつに、天からの王冠を授けられる。)

ギルベルトの心に喜びがあふれる。
嬉しそうな兄に呼応して、ルートヴィッヒも嬉しくなる。

「兄さん、あのね・・・。」

ルートヴィッヒを肩車すると、ギルベルトは食堂のほうへと向かう。
たわいのない話をしながらギルベルトは思う。


己の全てをささげても惜しくない、自分の存在を消してでもその「国」を存在させたい、という気持ちを、ギルベルトは初めて知った。


(そうか・・・・。ブランデンブルクはきっとこんな気持ちで・・・・。)

ギルベルトが「プロイセン公国」となった時、ブランデンブルクはすべてをギルベルトに譲り渡して「国」を退いた。
あの時はどうして、ブランデンブルクがそこまでしてくれるのかわからなかった。
しかし、いまならば、わかる。
ブランデンブルクが言ったように。

『お前を守る。わが愛し子よ・・・・。お前を新たに「創る。」私の全てをかけて・・。』

寡黙なブランデンブルクが話してくれた。

『お前こそが、わたしの夢の具現・・。』

『犠牲になどなったとは思わない。
目の前の愛しい子のために、生きることの喜びは何にも代えがたい。』

彼が全てを自分にくれたからこそ、今の自分がいる。


(ああ・・・ブランデンブルク・・・・・。俺は、今、お前に会いたいよ・・・・。)


今はホーエンツォルレン城の山奥に引きこもってめったに世俗には出てこないブランデンブルクをギルベルトは思う。
壮絶なまでに美しいその姿は、まるで神話から抜け出してきた夜の神のようだ。
静かに話すあの声を聞きたい。
ルートヴィッヒと一緒に過ごす時、自分を見つめる時、あの彼の瞳を見たい。
あの慈愛に満ちた瞳。
ギルベルトと一緒に唯一、「ドイツ」誕生を喜んでくれたブランデンブルク・・・・・・。

ルートヴィッヒも彼を慕っている。
会いたいが、ブランデンブルクは騒々しいことが嫌いなのだ・・・・。
ましてや、今ドイツ諸国じゅうの小競り合いなど、彼にとって、うっとおしいものだろう・・・。すべてを自分にまかせてくれた彼の信頼を裏切らないためにも、すぐに、そんな問題は片付けてやる。
そして、「ドイツ」を・・・・・。



「兄さん?どうしたの?考え事?」
急に黙ってしまった兄を見て、ルートヴィッヒが尋ねる。

「何でもねえよ。ルッツ。さあ、飯食おうな。もう、家じゅうのもん食いてえぐれえ腹減ってるんだ!俺様よ。」

「うん!今日ね、兄さんの好きなツィゴイナー・シュニッツェルなんだよ!」
「お!!そうか!そりゃいいな!」

「兄さん、兄さん!!あのね、昨日シュタインと図書館にいたら、変わった本見つけたんだよ!」
「変わった本?どんなんだ?ああ、そりゃ俺は読んだことねーなあ。今度どんなんだったか教えてくれ。なあ、ルッツ。お前もそろそろ、本だけじゃなくて、実際のものをみねえとなあ。今度一緒に大学にでも行くか?」

「兄さん、今日ね。中庭で剣のけいこしてたら、すごく珍しい鳥が飛んできたんだ!青くて小さくて、すばしっこいんだ!」
「へえ、青い鳥かあ。俺もみてみてえなあ。青い鳥ってえのは幸運のしるしだっていうだろ?知ってるか?」

食事の間も、二人はひっきりなしに会話する。
話したいことがありすぎて、ルートヴィッヒの食事がなかなか進まない。
反対にギルベルトはこの細い体のどこに入るのか、というくらい食べている。

シュタインが笑って二人に言う。
「ご主人様。食事を終えてから、居間でゆっくりとお話なさいませ。
デザートはコーヒーと一緒に、あちらにお持ちしますので・・・。」

「おお。そうだな。よし、ルッツ!さっさと食っちまおうぜ!お前に見せたいもんもあるしな。」
「うん!兄さん、見せたいものってなに?」
「へっへー!お前におみやげだ!」
「ほんとに!?なんだろう?」
「さあ、なんだろうな。食ったらもってきてやるからな!」

急いで食事をすませて、居間へと移る。
足の高いソファにルートヴィッヒはよじ登るようにして座る。
ギルベルトが自室から何かを取ってきた。

「こいつをお前にやろうと思ってな。」

そう言ってギルベルトが取り出したのは、木製の鞘に収まった小さなナイフ。

「これ・・・短剣?変わった形だね・・・。」

鞘から小刀を取り出すと、それは鈍い光を放っている。
さざ波のような文様が刃に浮き出ている。

「すごく・・・きれいだね・・・・。」

「それなあ・・・・アジアの東のほうの「日本」=ヤ―パンって国の短剣なんだ。ええっとなんて言ったかな?確か・・・・アイクチとか言うんだ。ヴュルツブルクのジ―ボルトって奴が日本から持ってきて、売り払ってたもんだ。王妃にどうかって話がきてたんだけどよ、お前の守り刀にどうかなっと思ってよ!」

「ありがとう!兄さん!大事にするね!」

「それ、結構、刃が鋭いから気をつけろよ。触っただけで指切れちまうからな。」

「うん・・・・・。ブレードが光ってる・・・・。なんかすごいね・・・・。ヨーロッパではこんなのみたことないや。
日本ってアジアの小さな国だよね?」

「ああ。チャイナの東の隣の小さい島だって聞いてるな。」

「わかった!ガリバー旅行記に出てきた!「フミエ」とかやってる国だ!」

「はは!それはお話の中だからな。実際は違うんだろうけどなあ。ヤ―パンは鎖国してて、まだ開国してねえからな。ネーデルランドの奴が独占してやがる。まあ、いずれ、どっかの国が行って植民地にしようとするんだろうが・・・。このアイクチとかもっとでかい「ニホントウ」とかすごいぜ。そのうち、でかいほうの刀も手に入れてきてやるからな。」

「うん!兄さんのサーベルよりもすごいのかな?「ニホントウ」って。」

「さあ、どうなんだろうなあ・・・。うわさじゃ、鉄の鎧とかも平気で切っちまうって聞いたけど・・・・。」

「へえー!すごいね!!」

「まあ、剣なんて、いまじゃあ乱戦にでもならねえと使わないけどな。ただ・・・俺が剣使った戦い・・すきだからな・・・。」

ギルベルトが少し、口ごもる。
こんな時、兄は、いつも、昔の時代を思い出しているのだ。
それは、ルートヴィッヒにとって、自分の知らない兄で、何か寂しい気分になる。