【ヘタリア】兄さんの子守唄 前篇
「ねえ、兄さん。これ、鎖かなにかをつけてベルトに通しておけるかな?
そしたら、いつでも持ってられるね。」
「ああ、つけてもらうか。その鞘も木製だからな・・・・。木だと割れちまうだろ?もうちっと衝撃に耐えられる素材にしてもらうか。」
「うん!ありがとう兄さん!」
「さてと、ルッツ!俺の宿題はちゃんとやったか?見せてみろ。」
「全部できたよ!もってくるね!」
ルートヴィッヒがソファから転がり落ちるようにして急いで自分の部屋へと戻る。
執事のシュタインがコーヒーを運んでくる。
「何か変わったことはねえか?」
「お耳に入れておいたほうがいいことがございます・・・・・。」
「なんだ?」
シュタインがギルベルトの耳のそばで声をひそめる。
「王室付きの近衛兵の間に不審な動きがありまして・・・・。どうやら、ルートヴィッヒ様に関することで・・・。」
「・・・・ルッツをどうかしようってのか?」
「まだ分かりませんが・・・・。国王陛下が何か画策しておいでとかで・・・詳しいことが分かり次第、ご報告いたします。・・・・・あと、この宿舎にいる将校の中で、ルートヴィッヒ様を敵視している連中がいるようです。」
「具体的に誰だか、わかってるか?」
「はい・・・・3名ほど。うち一人はあなた様の直属です。」
「・・また、「プロイセン」崇拝者か・・・・。困ったもんだ・・・・。」
「あなた様を絶対視するものは軍には沢山おりますが、「ドイツ」を排除しようという動きが見られるのは、この3名だけです。」
「そうか・・・・。監視を怠るなよ。俺も探ってみる。そろそろルッツが戻ってくる。
そいつらのことは後でな。」
「はい。 ・・・・では、お話が終わりましたら、お湯を用意しておきましたので・・・ゆっくりとおくつろぎを。」
そこへルートヴィッヒが戻ってきた。
「兄さん!持ってきた!」
「おう!どれどれ?見せてみろ。」
ギルベルトが山と積まれた分厚い紙を覗きこむ。
シュタインはコーヒーを入れると静かに引き下がる。
「へえ、頑張ったなあ。よく出来てる!」
「ほんと?!」
「ああ、えらいぞ!ルッツ!!ご褒美やんないとな!」
「もう、もらったよ!あの・・えーと、アイクチ!」
「それは、お土産だからな。ほんとにお前はよく頑張ってるよ!こんな難しい本、俺がお前位の時は読まなかったしなあ・・・。」
「兄さんの・・・・子供の時って・・・・どんなのだったの?本とか貴重だったの?」
「ああ・・そうだなあ・・・。今みてえに、紙とかなかったからな・・・。羊皮紙ってわかるか?」
「うん!あの皮をうすくした、聖書とか作ってるやつだよね?」
「そうだ。昔はああいうのしかなかったからなあ・・・・。」
会話をしながら、ギルベルトはコーヒーをお代わりし、デザートを平らげる。
さっきあれだけ食べたのに、兄の食欲は尽きないようだった。
(やっぱり疲れてるのかなあ・・兄さん・・・・。戦地じゃろくな食事もとれないだろうし・・・・。一緒に見てほしいものがいっぱいあるけど・・・。)
ルートヴィッヒが考えているとギルベルトが言った。
「ん?疲れたか?ルッツ。そろそろ寝る時間だろ?」
「ううん。まだ眠くないよ!もっと兄さんと話してたい!」
「はは!!俺はまだしばらくはここにいるからな。明日でもいっぱい話せるぜ!さあ、食ったら風呂入ろうぜ。お前もまだ入ってないんだろ?」
「うん・・・・。」
まだ兄と一緒にいたいルートヴィッヒは不満顔だ。
「じゃあ・・・一緒に風呂・・・入るか?!」
「うん!」
とたんにルートヴィッヒの顔が笑顔に変わる。
(あー、可愛いぜ!なんでこんなに可愛いいんだろうなあ・・・ルッツ!)
ギルベルトもつられて笑ってしまう。
この弟はどうしてここまで自分を慕ってくれるのだろう?
戦地での疲れや緊張もどこかへ吹き飛んでいってしまうような気がした。
シュタインがお湯を用意する。
「まったく・・・あなた様は外地からお帰りで、さんざん汚れておりますでしょうに・・・。ルートヴィッヒ様、一度兄上様が「体を洗ってから」ご一緒に入られませ!」
執事は、ギルベルトの衣類を受け取ると、文句を言った。
「俺は汚れもの扱いかよ!」
「実際に汚れておりますでしょう・・!さあ、そのシャツをお貸しください!一体いつお着替えになられたのか・・!!」
「ほんっとうに、お前はうっさいぞ!」
「私の役目でございますからね!さあ、一度お体をお流しください!もっとお湯を運ばせますから!」
容赦なく、ギルベルトの頭からお湯をかけながらシュタインが言う。
ルートヴィッヒはいつものシュタインの毒舌と兄との掛け合いに笑ってしまう。
この二人は主従ではあるが、その前に気の置けない友人同士なのだ。
シュタインは有能な軍人だが、ナポレオン戦争で大怪我をした。
田舎へ帰ろうとした彼を、その優秀さを惜しんだギルベルトが休職扱いにして、自分の元に、執事兼、秘書として置いているのだ。
「国家殿」の滅多にないわがままに、軍は驚いたが、シュタイン少佐には、プロイセン軍が失うには惜しい、頭脳と情報収集の才があった。
剣の名手でもあったことが、同じく剣の使い手であるギルベルトのいい相手となった。
軍の誰もが、ギルベルトの剣の相手など出来ないのだ。
シュタイン少佐のリハビリと称しての、中庭での剣の打ち合いは、軍内部での伝説となるほど、激しかった。
ルートヴィッヒも兄のいない間、シュタインに剣をけいこしてもらっている。
兵士たちも、たまにそれに混じってシュタインに教えを請うている。
「ドイツ殿」としてのルートヴィッヒの幼い姿も、軍内部の兵士たちには違和感のないものとなっていた。
「兄さん、俺が背中洗ってあげるね!」
「おっ!そうか、じゃあ頼むぜ!」
湯船につかった兄の背中にゆっくりとお湯をかける。
「そうそう、工業地帯で新しい石鹸が作られまして、見本を送ってまいりましたよ。
これをお使いになってみませんか?」
そう言って、執事はいい香りの石鹸を差し出した。
プロイセン国内は、工業もまた再開され、こまごまとした日用品の製造も盛んになってきた。後は、イギリスに遅れを取っている重工業だ・・・・・・。
製鉄や、鉄道、重工業と機械工業は飛躍的に伸びている。
もっと生産が盛んになれば、国の力ももっと増大するだろう。
「これすごいね!!泡がいっぱいでるよ!」
「では、ルートヴィッヒ様、兄上様をぴかぴかにして差し上げてくださいませ。
でもあなた様が入られるのは、新しいお湯を持ってきてからですよ!でないと汚れます。」
「だから俺様を、よごれもん扱いすんな!!」
泡だらけになったギルベルトの頭から、シュタインと一緒にお湯を注ぎかける。
ふうーっと、ギルベルトが息を吐く。
「ああ、気持ちいいな。戦地でも、こういうのができりゃあなあ・・・。いまだに水浴ってのは冬にこたえるんだよな・・・。」
「兵はともかく、あなた様は平気でございましょうに。」
「あんだよ!俺だって、寒いもんは寒いんだよ!」
「それを、「なまっている」、というのですよ!」
作品名:【ヘタリア】兄さんの子守唄 前篇 作家名:まこ