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まさきあやか
まさきあやか
novelistID. 8259
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松本珍道中 / リボツナ

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 二十をいくつも越えた教え子への心配と言うよりも、こんな彼を知るのは自分だけであればいいと言う独占欲は見て見ぬふりをする。

「もちろん」

 複雑な心を笑顔一つに封じ込めて、リボーンはそう返して綱吉に口づける。自分よりも少しだけ低い体温が触れる完食に綱吉は目を閉じると、自分の意思でリボーンの後頭部に腕をまわした。

「ツナ?」

 思いのほか深くなった口づけを解いて、リボーンが綱吉の顔を覗き込む。あまり身長差がなくなったせいか真正面にあるはずの綱吉の顔は、逸らされてリボーンの肩口に押しつけられた。

「お前が、オレに…いや、ボンゴレに不利な事をしないってのはわかってるんだけどな」

 アルコバレーノであるリボーンは、ボンゴレファミリーの一員ではあるものの、特殊な立場にある。それは、マーモンやスカルも同じだ。
例外があるとするならばアルコバレーノのボスであり、ジッリョネロファミリーのボスであるユニぐらいだろう。
 だが彼女もまたアルコバレーノとして逃れられない号がある事を綱吉は知っている。そんな彼らではあるが、十年以上の付き合いの中で、リボーンが自分や友人である九代目のボンゴレに対して情を向けていることぐらいは知っている。
 だからこその言葉に、リボーンはしばらくの沈黙の後に皇帝を返した。

「そーだぞ」

 きっと、自分がボンゴレに傾ける情の根底にある思いなど、この鈍感でダメツナな教え子は欠片も理解していないのだ。それこそが綱吉と言う気もするし、歯がゆいとも思う。
 それもまた一興。と思える程度に、自分もまた丸くなったと思うリボーンだ。きっと綱吉と出会う前の自分が今の自分を見たら偽物だと思うに違いない。

「ツナ」
「なに、酔ったのかよ?」

 いつの間にか、自分から離れてソファに座りグラスを傾けている教え子。同じように彼の前に座ってグラスを傾ける。

「これくらいじゃ酔ねーぞ」
「どうだか」
「いいやがったな」

 お前に酒を教えたのはこのおれだぞ。と、嘯いてグラスを傾ける。コクのある原酒がジワリと喉を焼くが後味は思いのほかすっきりしていた。





「んっ……呼んでる?」

 深夜、二人きりと言うこともあってお互いに戯れるだけで済ませて眠りについたあと、不意に綱吉が目を覚ました。何処か遠くで自分を呼ぶ声がするのだ。
 身じろいだ綱吉に、リボーンが目を開ける。

「ツナ?どうしたんだ?」

 まだ眠いのか、とろんとした琥珀色の眼差しが周囲をうかがうように動く。それを上から覗き込んでリボーンも気配を探るが、特に警戒するようなものはない。
 しかし、綱吉はムクリと起き上ると、そのままベッドから降りてしまった。着て来たスーツはフロントに預けてある。その代わりに駅前で買った――ちなみに綱吉が妙に楽しそうだった――シャツとスラックスに着替える綱吉。
 その動きはどこか緩慢で、寝ぼけているようにも見える。リボーンも不思議に思いつつ、こちらはいつも用意してあるアタッシュケースの中身に着替えた。

「…呼んでる……」
「おい、ツナ」

 ぼんやりとした表情のまま、綱吉はホテルを出て駅へと向かう。こんな時間では周遊バスはおろかタクシーもない。綱吉はそのままふらふらと駅の前を通過していく。
 だが不意に足を止めたかと思うと、オレンジ色の光が彼を包み込んだ。

「お、おいツナこんなところで!」

 駅前と言うこともあって深夜でもまだ人通りが多い。そんなところで炎を使う綱吉にリボーンが驚くが、綱吉はそんなリボーンの声も聞こえていないようで、そのまま炎で上空へと舞い上がった。

「あのバカ!」

 何考えてやがるとリボーンは舌打ちすると、そのまま駆け出す。幸いにして夜空にオレンジの光はよく目立つ。見失うことはないだろう。
 それから三十分ほど夜の松本城の横を通り過ぎ、全力疾走するリボーンがたどり着いたのは、松本の観光地の一つ。旧開智学校だった。
 重要文化財であり、日本で最も古い小学校の一つだ。松本城からも近かったので日中にはリボーンと綱吉も足を伸ばしている。
 なんでこんなところに。と、リボーンが上空を見つめると、綱吉が敷地内に降りて行くのが見える。あわてて柵を乗り越えて、綱吉に駆け寄る。
 綱吉は正面入り口に立っていた。夜間と言うこともあって閉じているはずの扉が、開いているのをリボーンが不思議に思う余裕はない。
 ただわかるのは、その扉の向こうが昼間見た口内とは違うこと。そしてそこから無数の白い手が綱吉に向かって伸びている事だけだ。

「ツナ、行くな!」
「え、リボ……うわぁ!!」

 リボーンの声に、綱吉が振り返る。それと同時に白い腕が綱吉の腕や腰に絡みついた。悲鳴を上げる綱吉にリボーンが銃を取り出す。
 しかし弾丸は一時的に腕をひるませることにはなるが、すぐに違う腕が綱吉へと伸びて来る。

「ツナッ」
「な、なん、なん、なんなのこれぇぇ!!」
「おれが知るか!」

 半泣きの綱吉に、リボーンも吐き捨てる。綱吉の身体を抱きしめて白い腕から距離を置く。ドアの向こうから延びて来る何本の白い腕。
 それから、子供の声がいくつも重なって聞こえた。思わず綱吉はリボーンの身体にしがみつく。

 ―――お兄ちゃん…

 ―――あそぼ……

「オメーはどうして毎回この手のもんを引き当てんだダメツナ!」
「オレのせい!?い、いやいや、こう言う事は骸の担当であってオレのジャンルじゃない!!」

 濡れ衣だよ!と、叫ぶ綱吉。このまま逃げても大丈夫かな。と二人の脳裏によぎる。
敵前逃亡?上等じゃねーの。ぶっちゃけ二人ともこの手の現象は信じてもいないし、それこそ綱吉ではないが、自分たちのジャンルではない。

「 !」
「へ?」

 そこに、鋭い声がかかった。声と共に白い腕がかききえる。突然のことに綱吉とリボーンは目を見開いた。

 ―――阿梨 那梨 兎那梨 阿那廬 那履 拘那履

 呪文のような聞き慣れない言葉の羅列と共に白い光がいくつも走る。何が起きたのか理解できずに呆然と立ち尽くす綱吉と、人の気配にリボーンが綱吉を守るように全身を警戒させる。
 先ほどまで超常現象に驚きすぎて人の気配が感じられなかった自分が少々情けない。アルコバレーノと言えども所詮はこの世の理からは逃げられないのだ。

「大丈夫か?!」
「いや、あんまり大丈夫じゃない」

 駆け寄って来たのは二人。どちらも年若いだろう。一人は高校生、もう一人はそれよりももう少し年上のようだが、それでも二十は越えていないかもしれない。
 黒髪の高校生らしき少年の言葉に、綱吉は平坦な声でそう返した。

「おもうが、おめーは結構図太いよな」
「周りが周りだからね!」

 いちいち驚いたられるかってんだこんちくしょう。と吐き捨てる綱吉。一時の恐慌が過ぎれば、驚くほどの肝の座りっぷりを見せるのが綱吉と言う人物である。

「なんだこりゃ、わかるか?景虎」

 そんな二人の前で二人のうち一人、ノンフレームのメガネをかけた茶色に染めた髪を緩く一本にまとめている青年が首をかしげる。
 景虎と呼ばれた少年は、そんな青年に首を振った。