【APH】指先から広がる空間
この地に向日葵は咲かないと嘆いて、寒さを恨み、孤独を誰よりも嫌う人が自分へ笑いかけてくれている。自分の名前を呼んで、おはよう、と暖かい言葉を掛けてくれる。ベラルーシにとって自分に向けてくれる彼のの笑顔こそが向日葵のような存在だった。子供のような寝顔から一転、自分の兄の表情へと変わった相手に対しベラルーシは鸚鵡返しのように挨拶を返す。おはよう。眠りを引き摺っていた彼の顔が穏やかに微笑む姿を、心の底から安堵しながらベラルーシは持っていた小瓶を列へと戻した。
「あれ、塗らないの?」
「……匂いが、気になってしまうと思うから。それに朝食の準備をしなきゃ」
「朝食くらい、たまには僕が用意するよ」
「そんなこと兄さんにさせられないわ」
立ち上がり、ベラルーシは依然としてベッドで上体を起き上がらせたままのロシアへと笑みを向ける。対するロシアは、んー、と小首を傾げる様な素振りを見せた後、まるで子供に言い聞かせるような優しい声でベラ、と彼女の名前を呼んだ。
それだけで、動揺してしまうほど彼を好きだと思う自分がいる。大好きで、大好きで、愛しているだけじゃ足りない。それ以上の言葉がどうしてこの世界には存在しないのだろう。今にも自分より随分と大きなその体に飛び込んで、自分の想いを伝えたい。
同じ事を毎日会って会話をしては繰り返して行ってきて、呆れたように分かってるよ、なんて呟かれるけれどベラルーシにとってはまだまだ足りないのだ。出来れば四六時中傍にいて、自分がどれほど彼を好いているかと証明したいくらいだ。過去にそう言ったことさえあった。そういえば昔そう伝えたとき彼はどう反応してくれただろうか。あやふやな記憶。思い出せないことへの腹立ちが募る。
「僕としては可愛い妹が更に可愛くなっていく姿が、見たい」
ああそうだった、とベラルーシは自嘲した。自分は妹という枠組みから到底抜け出すことが出来やしないのだ。ずっと傍にいたい、と主張した自分に対して過去の彼はこう応えていた。「そんな兄妹はいないよ」と。どこまで行っても平行線を辿るしかない二人の関係。一方的な思いが咲く可能性などありはしない。
作品名:【APH】指先から広がる空間 作家名:ナルセ