二年後設定で沖神!
宣言
神聖真選組皇帝、ソーゴ・ドS・オキタ三世。
「だれにも見つからずにすんだな」
小声でつぶやいた。
彼は今、沖田総悟にもどっている。
制服の上にマントを羽織っているのではなく、着流しに袴という格好だ。
さらに笠を深く被っている。
顔を見られないように。
沖田は真選組の屯所から離れていく。
抜けだしたのだ。
皇帝の執務室の机の上には山積みの書類がある。
やらなければならない仕事であるのはわかっているし、やる気もある。
けれども、息抜きがしたくなった。
それで、だれにも見つからないように気をつけながら、こっそりと屯所を出たのだった。
お忍びで江戸の町を歩く。
自由だと感じる。
天気が良いせいもあって、爽快な気分だ。
しばらく歩くうちに、人だかりができているのを見つけた。
彼らは近くにある大きなビルのほうを心配そうな表情で見ている。
「なにかありやしたかィ?」
その中のひとりに近づいて、沖田はたずねた。
相手は四十すぎぐらいの男だ。
「ああ、ここに、さっき、女の子が飛びこんでいったんだ」
ビルのほうを指さした。
そのビルには、渡流瀬会、という看板が取り付けられている。
渡流瀬会。
振興の会社である。
ただし、表向きは、だ。
裏ではかなりあくどいことをしているらしい。
その噂は沖田の耳にも届いていた。
おそらく、ただの噂ではないのだろうとは思う。
実際、真選組隊士に探るように命じてもいた。
だが、渡流瀬会は尻尾をつかませるようなことをしないのだ。
「なんで、その女の子は飛びこんでいったんでィ?」
「ここだけの話だが」
男は声をひそめた。
「あの会社はニセの証文で、大勢のひとを苦しめてる」
それについても、沖田はもちろん知っている。
しかし、初めて聞いたように装って、話を聞く。
「その証文のせいで泣かされた者に同情して、証文を奪って偽物だって明らかにするって言って、あの子は飛びこんでいったんだ」
「へえ」
「だが、このビルの中には、おっかねえ連中がいっぱいいるし、みんな、心配でさ」
そのわりには助けに行かないのか。
一瞬そう思ったが、それが普通だろうと沖田は思い直した。
自分基準で判断するのは良くない。
「その女の子ってのは、強いのかィ?」
「いや、それがさ、可愛い感じで、そんなに強そうじゃなかったんだ」
「なんで、止めなかったんでィ」
「その子が、自分は強いって言ったんだ。えいりあんはんたーだからって」
沖田の眼が点になった。
もっとも、笠をかぶっているせいで、男には見えないだろうが。