暦巡り
大雪 12月7日
「はっくし……!」
自分のくしゃみで目を覚ました。
急激に知覚し始めた冷気にぶるりと身を震わす。寒い。
それもそのはず、普通に寝ていた筈なのに私の着ていた掛け布団が姿を消していた。
夜中に暑くなって蹴飛ばしたんでしょうか。いやいや、アメリカさんじゃあるまいし。しかし、可能性がまったくゼロというわけではない。
布団……布団……どこでしょう。手探りで掛け布団を探すがそれらしきものに当らなかった。隣の布団から聞こえてくるのは、規則正しい寝息。アメリカさんはいまだ熟睡中だ。
あ、あった……ってこれはアメリカさんの掛け布団ですね……。
まだ日も昇らぬ冬の明け方。いったいいつ頃から布団を剥いでいたのか、冷たい空気に晒された体はすっかり冷え切っていた。指先がまるで氷のようだ。腕を抱え込むようにさすりながら、体を小さく丸くする。寒い。もう一度、掛け布団の中で温まりたい。
しかし、目的の物はいっこうに見つからなかった。
そんなに豪快に吹き飛ばしたのだろうかと首をひねりながら、しぶしぶ起き上がる。
しん……と、静まり返った薄暗い和室。明かりをつけてはアメリカさんを起こしてしまうと、そのまま目をよく凝らして見るがやはりない。
ますます不可解だ。どうしたものかと思案に暮れる。その間にもどんどん寒さは募っていく。ああ……ぬくぬくと暖かい布団……アメリカさんがうらやまし……ん? んん?
すよすよと緩んだ顔で幸せそうに眠るアメリカさんに視線を向けて、私はようやく気がついた。
アメリカさんが着ている掛け布団、私のじゃないですか? どういうことですかいったい?
よくよく見れば、アメリカさんはもう一枚の布団をぎゅっと抱え込んで寝こけている。
ははあ、きっと御自身の掛け布団を抱き枕にしてしまったので寒かったのでしょう。それで、寝ぼけて私の布団を引っぺがしたと……。
なるほど。状況は分かりました。
しかし、納得は出来ませんね。……お仕置きです。
「ていっ」
ぺっちん。
「う……」
幸せそうに駄眠をむさぼる恋人のおでこを、平手で軽く叩く。
わずかにきゅっと眉をひそめたけれど、アメリカさんはすぐにまた夢の中に戻ってしまった。
今度は頬を弛くつまんで、むにぃと引っ張る。良くのびる白い肌は思ったよりも冷たい。
「んむぅ……?」
はは、変な顔。
……さて、これくらいで勘弁してあげましょうか。さすがに、起こしてしまうのは可哀想だ。
「へくしっ!」
また、くしゃみが出る。うう、寒い。とうとう歯の根が噛み合わなくなってきました。
あたりはおぼろげながら明るくなりつつあった。しかし、底冷えする寒さは逆に増しているように感じられた。
雪でも降っているんですかねえ。
「くしゅっ!」
三回目。そろそろ本当になんとかしないと、風邪を引いてしまいますね……。
ちらりとアメリカさんに視線を移す。
彼から布団を返してもらうのは、少々骨が折れそうだ。私の布団を取り戻すだけならまだしも、抱き枕になっているアメリカさんの布団を元のように掛け直すことまで考えると……正直、面倒臭い。
……仕方ないですね。
「失礼します」と小さく呟いて、アメリカさんの布団に潜り込む。ああ、ぬくい。合わせた背中から伝わってくる体温も心地良い。
寒い朝のお布団は天国ですね。
それでは……お日様が昇りきるまで、このままもう少しだけ……おやすみなさい。
END