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【イナズマ】赤いきつねと円堂守

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小さいながらちゃんとした社で、色あせた赤い鳥居も石狐もきちんと社の前に鎮座していた。
意匠を見るにお稲荷さんなのだろう。
商売繁盛を祈って、会社や工場の中に稲荷の社があるところはそう珍しくはない。
こんなところにこんなものが、と、とふと何気なく足を止める。
しかしながらここの社は長い間手が入れられていないのか、周囲はぼうぼうと草に埋もれ、拝殿も荒れている印象だった。
工場にも人の気配はない。
もしかしたら既に潰れているのかもしれない。

「……なんか可哀想だな……」

拝む人も、供え物もない寂しい社に、なんとなく手をあわせる。
暫くそうした後円堂はまた、大荷物を抱えててくてくと家路に向けて歩き出した。
それが、思い出せる限りのことである。



「………あれ?」
「そうだよ、思い出した?」
「あ……ああ、でも……」

確かに寂れてはいたが、立派な社も鳥居もあった。
その社の主だという少年が、何故自分をここに置いてくれと頼むのか解らない。
そのことを言うと少年は初めて、少し悲しいような、寂しいような、頼りない表情を顔に浮かべた。

「……もうないんだあの社。壊されちゃった」
「……え?」
「あの工場、随分前に潰れててね。だから長い間放置されてたんだけど、どうやら、マンションが建つらしくって。工場も壊されて、木も切られて、最後には社も壊されちゃった」
「そ、それは…」
「だから俺は今はぐれ稲荷なんだ。宿無し。行く場所も帰る場所もないんだよ」
「……ちょっと待てよ、お稲荷さんってそもそも、大きな神社からつれてこられるんじゃねーの?」

円堂が言うと、少年は少し驚いたように緑の目を丸くして、

「へえ、よく知ってるね。そうだよ」
「……こういうの詳しい奴がいてさ。そいつに聞いたんだよ」
「うん、俺ももともと上方の神社から引っ張ってこられたんだよね。伏見稲荷大社って知ってる?」
「なんか、聞いたことがあるような、ないような……」
「とにかく、そこの出身なんだよ」
「じゃあ、そこに戻ればいいんじゃないか?もともとはそこにいたんだろ?」
「……そうしたいのはやまやまなんだけどね……」

ぱちん、と火を止める指先。
片手鍋からどんぶりにラーメンを引き上げると、少年はテーブルに戻ってきて三杯目を食べ始めた。
ラーメンをすする狐なんて聞いたことがない、と円堂はぼんやり思う。