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【イナズマ】赤いきつねと円堂守

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「……戻れないんだよね」
「何で?」
「そういう決まりなんだ。一回分霊……あ、引っ張ってこられることね、分霊されるとね、その場所が没落しちゃっても大社には帰れないんだ。だから皆必死になって仕事するんだよ。わかるかい?」
「う、うーん……なんか厳しいんだな」
「厳しいよ。言っておくけど、俺はサボってなかったよ。精一杯頑張った。でも、四代目くらいから経営が厳しくなって、ろくに手入れもされなくなって、そうすると力も弱くなっちゃうから、またどんどん状況は悪くなって……あとは悪循環でいきつくとこまで行っちゃったんだ」

それだけ言うと、少年は眉を寄せて少し困ったように笑った。
箸を器用に動かしながら、

「ついに社もなくなっちゃうし……」
「……なんか、大変だな」
「うん……まあね」
「それで俺のところにきた、と……」
「うん」

ぐっとお茶を煽り、狐はぱたたっと耳を動かした。
吊り上った、翡翠色の瞳がじっと円堂を射抜くように見つめる。

「守が拝んでくれてよかった。お陰で最後に逃げ出せたんだ」
「……そうなのか?」
「うん。長い間放っておかれたからね。もうほとんど力もなくって。このまま消えちゃうのかなって思ってたから。でも守が拝んでくれたから、少しだけ力が戻ってきたんだ」
「え、ちょっと待てよ」
「なんだい?」
「お前……消えちゃう、のか?」

物騒な言葉に思わず口を挟めば、ごく当たり前のことと言わんばかりに少年は軽く頷く。

「忘れられるとね。誰かの信心が俺達の力になるんだ。だから放って置かれたら力も弱くなるし、悪いものになっちゃうこともあるし、最悪消えてしまうんだよ」
「……消えちゃうかもしれないのか?」
「守がここに置いてくれなきゃね」

なんだそれは。
脅迫か、脅迫なのか。
そんな寂しそうに言われては、嫌だと言い辛いじゃないか。

「……そう言われてもなあ……母ちゃんになんて言われるか……」
「俺、神様だから小さくもなれるし、姿を隠すことも出来るよ。今は守にわかりやすいように人間の姿になってるだけだけだし」
「でも、ほら、社とか神棚とかいるんじゃねえの?」
「あったほうがいいけど、なくてもいいよ。守さえちゃんとお供えして拝んでくれれば大丈夫だから」

少年が立ち上がりふいっと姿を消した、と思った瞬間、唐突に円堂の目の前に現れた。
思わず声を上げて仰け反る。